夕方に無理やり奪われたキスの感触を思い出し、嫌悪感が蘇る。唇を擦りたくなる衝動に耐えながら、できるだけ淡々と告げた。
「……なんだって?」
「双子のお兄さんの隼人さんと」
相手を告げると、目の前の彗は絶句している。
それもそのはず。彗から双子の兄がいるという話は聞いたことがなかったので、羽海が隼人を知っているなんて思いもしないだろうし、恋愛初心者の羽海と不貞行為というワードが結びつかないのだろう。
(たとえ無理やりだろうと、キスはキス。婚約者がありながら他の男性と唇を合わせてしまったなんて、間違いなく不貞行為だわ)
優等生気質で真面目な羽海だが、本気でそう思っているわけではない。あんなふうに合意なく無理やり唇を奪われたのだから、羽海は被害者である。
ただ自分に〝不貞行為を働いたのだ〟と言い聞かせないと、いつまでも彗の優しく残酷な嘘に浸っていたくなってしまう。
(自分に執着するなという条件を出してきた人が、愛してるフリが上手すぎるなんて、すごい矛盾してる)
先程羽海の体調を心配していた彗は、どう見ても羽海を愛しているようにしか思えない。



