それだけでも嬉しかったのに、百貨店のメンバーズサロンで羽海の全身コーディネートを彗と一緒に選び、目が飛び出るほど高価な婚約指輪を贈られた。
リクエストした水族館では彼と手を繋ぎ、コツメカワウソの食べっぷりが彗に似ていると笑い、記念にぬいぐるみまで買った。
等身大のコツメカワウソのぬいぐるみは今も羽海のベッドを我が物顔で占領していて、俺様な部分まで似ていると帰ってきてからもくだらないことで笑い合った。
羽海にとって人生初のデートはこれ以上ないほど素敵な思い出として記憶のアルバムに焼き付いていたはずが、パラパラと砂の城のように崩れ落ちていく。
(あのデートも、全部財団を継ぐため……?)
プロポーズに頷いて、まだ三週間も経っていない。
忙しくてなかなかふたりの時間を取れないが、それでも彗に甘やかされるうち、少しずつ婚約者らしい距離感に慣れてきたところだった。
これから妊娠を打ち明け、親になる喜びや不安を分かち合い、ふたりで祖母に幸せな報告をしたかったのに。
彗にとっては全部、目的を達成するためのプロセスに過ぎなかった。距離が縮まっていると思っていたのは羽海だけだったのだ。



