天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


しかし羽海の願いも虚しく、彼は聞き取れないほど小さな声で呟いた。

「その話、誰から……」

目を見開いて驚く彗を、顔から血の気が引いていく思いでじっと見つめる。

隣に座る彼の表情で、隼人の言葉が事実なのだと悟った。

(あぁ、そうなんだ。彗さんは本当に財団を継ぐために私と結婚したかったんだ……)

初対面の隼人に強引にキスされたのも吐きそうなほどショックだったが、プロポーズの真実を知った今はその比ではない。

(あの言葉も、体調を気遣ってくれる優しさも、名前を呼ぶ甘い声音も、全部偽物だったの……?)

俺様で、自信家で、人の話を聞かずに突っ走る横柄さがあったけれど、少しずつ不器用な優しさを見せ出した彗を好きになった。

医師として努力を惜しまない人柄を尊敬していた。

きちんとしたデートは一度だけだが、あの日はとても楽しくて、まるでシンデレラのような気分を味わわせてもらった。

初対面の時になにも聞かずコーヒーを注文したり、家事の対価だと羽海には到底似合わないバッグをプレゼントしようとした彗が、羽海に『どこか行きたい場所はあるか?』と聞いてくれたのだ。