(先に不安を取り除いて、それから幸せな報告をしたい。きっと、きっぱり否定してくれるはず)
羽海は意を決して口を開いた。
「彗さんは私と結婚したら財団を継げるんですか? だから私に結婚を申し込んだんですか?」
一息で言い切ってから、羽海は隣に座る彗を祈るように見つめた。
(不機嫌な声でいい。「違う」って、「いい加減、俺の気持ちを信じろ」って怒って。そうしたら謝るから。ちゃんと「私も好きです」って言葉にするから……)
彗からの甘いスキンシップにドキドキしすぎるあまり、羽海はこれまで自分から彼に対する気持ちを言葉にして伝えたことがない。
プロポーズの時も、ただ頷いてくれればいいと請われ、自分の想いを告げる機会がなかった。
(あの日も今も、たしかに彗さんは私を想ってくれているって感じる。大丈夫……)
隼人の人を見下すような表情を思い出すたび、彗を信じる気持ちが挫けそうになる。
『人生で初めて、女を愛しいと思った』という彗の言葉は、羽海にとって指輪よりも嬉しい宝物だ。
その言葉が嘘だなんて思いたくないし、幸せな思い出を汚されたくない。
ふたりの祖母が唐突に結び合わせた縁で、互いに初めは恋愛感情など欠片もなかったけれど、それでも今は想い合っていると信じたい。



