天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


具体的な日取りこそ決まっていないが、式よりも先に入籍しようと彗が言っていたのを思い出す。

それに、やはりどうして自分なのかと疑問ではあった。

あれほどまで整った容姿で、家柄や医師としての才覚に恵まれているのなら、いくら祖母に紹介されたとはいえ、わざわざ平凡を絵に書いたような羽海を選ばずともいいはずだ。

病院内で早々に羽海を婚約者だと言いふらしたり、衆人環視の中でわざとらしく愛の言葉を囁いてみたり、わざわざ外堀を埋めるような言動は普段の彗からしたら不自然だし、そうまでして女性に執着するタイプにも見えない。

欲がなく、媚びないところがいいと言ってくれたけど、そんな女性は山のようにいるだろう。

だとすれば、やはりなにか羽海との結婚を急がなくてはならない理由があるのだ。

(財団を継ぐのに、私と結婚しなくちゃいけなかった……?)

考えれば考えるほど、隼人の言うことが本当な気がしてきてしまう。

(今思えば、家柄どころか見た目もやっぱり釣り合わないし、出会って一ヶ月で結婚を決めるなんてあり得ないよね)

胸の奥にずっとあった不安な気持ちを他人に無遠慮に煽り立てられれば、卑屈な思いがシミのように黒く滲んで広がっていく。

それでも、ここ最近の甘く優しく接してくれる彗を偽りの姿だと思いたくない。