天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


そっくりな見た目に納得したものの、なぜ隼人が羽海を知っているのかの疑問は解けていない。

「彗さんのお兄さんが、私になにか用でしょうか?」
「言っただろ、次は俺の番だって。ばあさんが決めた相手、つまりあんたを落とした方が親父の次の理事長になるんだ。今、あんたは彗と一緒に住んでんだろ? フェアじゃないし、そろそろ交代だ」

隼人の言葉の意味がわからず、身体がぴしりと固まる。

羽海の反応などお構いなしに隼人は話し続けた。

「どうせこの病院は医者のあいつが院長の座を継ぐんだろ? 俺が長男なんだから、まどろっこしいことしないで財団は俺にくれればいいものを、彗が婚約して理事に就任するって聞いたからさ。ばあさんの戯言じゃねぇんだって思って、あんたのこととか色々調べたわけ」
「多恵さんの戯言って……」
「去年の春、ばあさんから言われたんだよ。いい加減将来を考えろって。どうせ跡継ぎがフラフラしてんのが体裁悪いから三十あたりで見合いでもさせられんのかと思ってたら、案の定彗にあんたをあてがった」

話が悪い方へと向かっていくのをただ呆然と聞くしかできず、羽海は小さく震える指先を反対の手でぎゅっと握った。

「俺には『いずれ財団を継ぎたい気持ちがあるのなら、もっと真剣に利用者のことを考えて仕事しなさい』なんて言っておきながら音沙汰なし。彗はばあさんが決めた相手と結婚すりゃ財団の理事就任ってさ。長男の俺を差し置いておかしな話だろ? あんたがどうやって取り入ったのか知らないけど、女帝の寵愛を受けてるあんたと結婚すれば理事になれるってんなら、俺にだってその権利はあるはずだ」
「私と結婚すれば理事に……?」