妊娠発覚から二日後。仕事を終えて貴美子の病室へ寄ると、退院の日取りが来週の土曜日に決まったと知らされた。
「おばあちゃんがリハビリを頑張った成果だよ。よかったね」
「そうねぇ。ずっと茂雄さんひとりにしちゃって、きっと寂しがってるわね」
貴美子は毎日仏壇の前に座り、茂雄の写真を見ながらその日あったことを報告するのが日課で、入院するまでは一日も欠かしたことがないのだという。
「そうだね。おじいちゃんも待ってるし、私もちょうど土曜日は休みなの。迎えに来るから一緒に帰ろう」
嬉しそうに微笑む貴美子にすぐにでも妊娠の報告をしようと思ったが、やはり一番最初に伝えるのは彗がいいと思い、まだ話していない。
彗はタイミング悪く当直と緊急手術が重なり、この二日間は病院に泊まり込んでいる。
羽海のつわりは比較的軽い方らしく、強い匂いを感じたり急に立ち上がるようなことをしたりしなければ、今のところ仕事をするのに不都合はない。
それでもいずれお腹が大きくなれば現場で働くのは難しくなるだろうし、きちんと報告して産休や育休についても確認しておかなくては会社に迷惑を掛けてしまう。
(今日は帰ってこられるかな? 妊娠したって伝えたらどんな反応するだろう。彗さん、とても子供好きには見えないけど、小児科の子供たちには優しい顔してたなぁ)
九階の小児科病棟の清掃を担当していた今日、先天性の心疾患のある子供の病室へ彗が来ていた。



