「心配するな。体調が悪いのに無理に抱こうってわけじゃない。ただ羽海と過ごす時間を持ちたいだけだ」
「心配なんてしてません。私も先生と……もっと触れ合いたい、です」
初めて彗と身体を重ねて以来、〝二度目〟が訪れていない。
デートした日以降、彗が当直で不在の時以外は彼の部屋で眠っており、現在羽海の部屋のベッドには、水族館で買ってもらったカワウソのぬいぐるみが我が物顔で寝転がっている。
羽海を抱きしめる彗の手が素肌に触れる気配はなく、いつもなら机に向かっている時間にベッドに入るため、彗の枕元にはタブレットが置かれている。きっと羽海が寝入ってから、横になったまま勉強しているのだろう。
勉強の邪魔になるから自室で寝ると言ったが、彗の「だめだ。そばにいろ」というひと言が嬉しくて、温かい彼の腕の中で眠る日々。
初めてだった羽海を気遣ってか、彗が忙しすぎるのか、思い当たる理由はいくつかあるが、こういう甘い空気になるたびにどきまぎするのも二度目がない一因なのではと感じる。
それを打破すべく恥ずかしさを忍んで言葉にすると、彗がぐっと喉を鳴らして俯いた。
「せっかく作ってくれた料理そっちのけで襲われたくないなら、ここでそんな発言はするな」
「先生」
「そろそろ、それもやめろ。俺は羽海の〝先生〟じゃない」
「……彗、さん」
「うん、それでいい」
再び大きな手が頭を撫でる。



