「あぁ。ここ最近泊まり込みが続いたから。さすがに帰らないと、婚約早々愛想を尽かされるのはまずいしな」
まるで『まずい』とは思っていない顔で笑うと、エプロン姿の羽海を抱き寄せる。
「わっ」
「いいな、こうやって出迎えてもらうの。病院で見かけても羽海は話しかけるなと言うし、そのくせいつも誰かと話してるし。帰ってくると俺のものだって実感できる」
「お、俺のものって……」
「違わないだろ。疲れた。充電させろ」
ぎゅうっとたっぷり十秒ほど力強く抱きしめてから、「着替えてくる」と自室へ向かう彗の背中を見送り、羽海は熱くなった頬に両手をあてた。
(相変わらず俺様なのに、やたら甘くて困る)
忙しくて時間がなかなか取れないのを補うように、隙きあらばスキンシップを図る彗にドキドキさせられっぱなしだ。
プロポーズの時に言われた通り、ふたりきりの時はストレートに愛情を表現してくれる。
同居まもない頃からは考えられないほど甘やかされていて、これが婚約者の距離感なのかと恋愛初心者の羽海は日々ときめきで溺れそうになっている。
顔を手で仰ぎながらキッチンに戻り、ステーキを焼いていく。



