「以前、先生が出した結婚の条件を覚えていますか?」
「あ、あぁ、あれは――」
「祖母は決められた縁談を拒み、祖父と駆け落ち同然で結婚しました。私はそんなふたりの馴れ初めに憧れていて、恋愛抜きの結婚をする気はありません。初対面で言っていた条件が譲れないのであれば、私はあなたと結婚できません」

一息で言い切ると、ハッと息を吐いた。

自分の『結婚できません』という言葉に、ぎゅっと胸が締めつけられる。

じわりと浮かんだ涙に目を瞠った彗が、「違う」と羽海の両肩に手を置いた。

「あの時は結婚に意義を見出せてなかった。立場上、結婚しないわけにいかず、相手は誰でもいいとすら思ってた。でも、今は違う」
「先生……」
「羽海がいい。羽海以外はいらない。……好きだ」

真剣な顔で姿勢を正し、真っ直ぐに羽海に向き合う。

「羽海が好きだ。人生で初めて、女を愛しいと思った。だから……俺と結婚してくれ」

俺様と噂される彗が、いつものような上から目線のプロポーズではなく、気持ちを告白し、請い願うように求婚している。

あまりにも夢のような展開で信じられず、羽海は口元を覆って立ち尽くした。