「結婚するなら、羽海以外考えられない」
「知り合って、まだ一ヶ月ですよ?」

交際ならともかく、結婚だなんて性急すぎではないだろうか。

「期間は問題じゃない。これまでどんな女性と知り合っても、結婚したいと思える相手はいなかった。それに、もたもたして他の男にとられるなんて絶対に御免だ」
「い、いませんよ、他の男なんて」
「お前……自覚しろって言っただろ。これまでは周りの男どもが節穴だっただけだ。羽海と一緒に過ごせば、誰だってお前に落ちる」

腕の中で聞く彗の声は低音で、耳から脳に直接響いてくるように甘い。

思わせぶりで期待したくなる言い回しに、羽海の鼓動はこれ以上ないほど速く激しくなっていく。

「先生は……?」
「落ちたから、こうして柄にもなく必死で口説いてるんだろ。いい加減、お前も俺に落ちろ」

不貞腐れた言い方だが、それでも羽海の心はキュンと甘く鳴いた。

すぐにでも頷きそうになる自分を戒め、羽海はずっと引っかかっていたことを確認するべきだと、彗の胸を押して距離を取る。

(これを聞かないと、先生のプロポーズには応えられない)

腕の中から抜け出るのにムッとした表情をした彗を愛おしく感じながらも、羽海は真剣な眼差しで彼を見上げた。