シンプルな黒いパンツにエプロン姿なので、ここの事務員なのだろうと思う。

垂れ目に小柄でいかにも〝可愛らしいおばあちゃん〟といった雰囲気の貴美子とは違い、切れ長の目にくっきりとアイラインを引き、背筋をピンと伸ばして歩く多恵は、若い頃はさぞやと思わせる面影が色濃く残っている。

多恵から「丁寧に掃除してくれてありがとうね」と声を掛けてもらって以来、顔を合わせるたびに他愛ない話をしていた。

祖母に育てられた羽海はお年寄りとの会話の話題にも困ることなく、多恵だけでなく、散歩中の入院患者とも、よくコミュニケーションを取っている。

仕事をしながらではあるが、誰かと話すことで入院している心細さを紛らわせられるならと、進んで話し相手になっていた。

「あら、そうだったの」
「そうなの。だからね、さっきの話ぴったりだと思うの。羽海さんと話していて、ずっといい子だなって思ってたんだけど、貴美子さんの孫だと知ったら、なおのことだわ」
「そうね。こうして再会したのも、羽海ちゃんがここで働いているのもご縁だわね」

貴美子は旧友との再会がよほど嬉しいのか、入院して気落ちしていた昨日とは打って変わってご機嫌だ。

しかし羽海にはどうしても確認しなくてはならないことがある。

「あの、ふたりがお友達っていうのはわかったから。どうしておばあちゃんがこの特別病棟に移動してるのか聞きたいんだけど」