「プロポーズの返事を聞いてない」

午前中に百貨店で豪華な婚約指輪を試着したが、羽海の指にサイズが合わなかったため、直しに二週間ほどかかるとスタッフに説明された。

婚約どころか交際もしていないのに、軽く高級外車くらいは購入できそうな価格の指輪を貰うなんてとんでもない。

スタッフに気付かれぬよう必死の形相で首を振ったのに、彗が『この指輪が羽海の指にぴったりのサイズになるまでに、プロポーズに頷く準備をしておけ』としたり顔で笑ったのは、ほんの数時間前の話だ。

「……指輪のサイズ直しが終わるまでが期限じゃなかったですか?」

それすら羽海は了承していないのだが。

「気が変わった。今すぐ聞きたい」
「横暴ですよ」
「今さらだな」

いたずらな笑みを浮かべた彗が続けて口を開く。

「羽海だって、まんざらでもないだろ」
「な……なんでそんな自信満々に」
「こうして手を繋いでデートしてるのがなによりの証拠だろ。羽海の性格上、絶対に嫌なら断るはずだ」

図星を突かれ、言葉に詰まる。手を引こうとしたが、強く握られてそれも叶わない。