「バカ、そんなわけないだろ。初めてのデートだって聞いたら、俺が選んだ服で羽海を着飾りたくなったんだよ。そのくらいの男心は汲んでくれ」
「それって……」
「ったく、ここまで言わせるなよ」
言うなりガタンと音を立てて立ち上がると「ほら、選ぶぞ。好みを言わないなら全部俺が見立てるからな」と強引に話を引き取った。
(これは……ダメかも……)
羽海は真っ赤に染まる顔を見られまいと俯いた。
初対面の時はなにも聞かずにコーヒーを注文し、家事をすれば対価としてブランドバッグを与えればいいと考えていた彗が、羽海の好みを知るために一緒に服を選ぼうとしている。
百貨店のハイクラス会員でないと入れない外商サロンでの買い物には驚いたが、それ以上に彗が羽海の意見を聞こうとしてくれたことが嬉しい。
まるで彗の心の内側に入れてもらえたような気分だ。
(こんなのずるい。好きになっちゃう……)
これまで惹かれまいと必死に自分を押し殺していたというのに、いとも簡単に恋に落ちてしまった。



