新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

「あの、ああ、あ、あの・・・・・・ど、どういうことなんですか? 山本さんは、本当にお、男。い、いえ、男性なんですか? じょ、女性なんじゃ? でも、一緒に住んでいて・・・・・・。あっ、それとも女性役? えっ? あれ? 男性だから、女性? でも、やっぱり一緒に住んでいたってことは・・・・・・高橋さんが男性役で……」
必死に整理しようとしたが、頭の中が混乱して何が何だか分からなくなり、高橋さんと山本さんの顔を交互に見た。
「あら、ブツブツ1人で混乱して大変そう。それはね。こっちの支社では有名な話しというか、貴博とルームメイトのように一緒に住んでいたからよ。だから、みんな公然のお約束みたいな感じでそう言うの」
公然のお約束・・・・・・。
「で、でも、ルームメイトだとしたら、山本さんは高橋さんと一緒に住んでいたわけですよね? 山本さんの彼氏が高橋さんだから・・・・・・ですよね?」
「そうだといいんだけどねー」
えっ? やっぱりそうなの? だとすると・・・・・・。
まさか、高橋さんが山本さんの彼女だとは思えない。思いたくない。山本さんが高橋さんの彼女だとしたら、それは山本さんが女役で・・・・・・山本さんもストレートではないってことだから、やっぱり高橋さんも? 高橋さんは、ストレートじゃなかったなんて。私は、そんな人を好きになってしまったの? もう、何がなんだかよく分からない。戸惑いのあまり、両手で顔を覆った。
もう、最悪。
「男よ」
エッ・・・・・・何?
恐る恐る両手で覆った顔を上げて、指の隙間からチラッと覗いた。 すると山本さんがこちらを見ていたので、ゆっくり両手を顔から離すと山本さんが腕を組みながら少し不機嫌そうな表情でこちらを見ていた。
「だから、私は男だって。何回も、言わせないでよ」
「あ、あの、でも・・・・・・」
そう言い掛けたところで、高橋さんが席を立った。
「かおり。誤解は、解いておけよ」
「はい、はぁい」
山本さんにそう言うと、高橋さんはトイレだろうか。席を立って行ってしまった。 
誤解?
「陽子ちゃん。いい? 私は、残念ながら男なのよ」
「あっ、はい」
今更ながらまじまじと山本さんの顔を見たが、やっぱり男になんて絶対見えない。手だって綺麗だし、声だって太くない。少し低いかな? と感じるぐらいだ。仕草だって、女性らしい。何処から見ても、女性にしか見えないのに。山本さんが、男だったなんて。
ハッ!