新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

「何にする? また、いつもの・・・・・・」
「あ、あの・・・・・・私、ちょっと用事を思い出したので、支社に戻ります」
2人の会話を遮ってしまった形になり、高橋さんがこちらを見た。
「どうした? 何か、忘れ物でもしたのか?」
「い、いえ、ちょっと・・・・・・その・・・・・・あの、私のことは気にしないで、どうぞゆっくりランチをされて下さいね。すみません。失礼します」
席を立ち上がって早口で挨拶をし、立ち去ろうとした時だった。
「ちょっと、待て」
エッ・・・・・・。
「その用事とやらは、食べ終わってからでもいいだろう?」
「そうよ。陽子ちゃん。そんなに急ぐことなの?」
山本さんまで、心配そうな表情で私を見た。
「そ、それは・・・・・・」
高橋さんが、小首を傾げて眉間に皺を寄せている。
どうしよう。
このままだと、引き留められてしまう。早く、この場を離れなくちゃ。
「ど、どうしても気になるので、すみません。失礼します」
うわっ。
席を離れようとしたところで、高橋さんが右腕を掴んだ。
「だったら、食べてから戻ればいい。ランチ抜きじゃ、午後から働けないぞ」
「で、でも・・・・・・」
「外は寒い。とにかく、座れ」
ああ。もう、高橋さんは全然女の気持ちが分かってないんだから。
「いえ、どうしても気になるんです。ですから、私のことは気にしないで、どうぞお2人で積もる話もあるでしょうし、そんなお2人の邪魔をするほど私も野暮じゃないですから。仲良くランチタイムを過ごされて下さいね」
あっ。しまった!
何だか、僻みっぽい言い方に聞こえてしまったかもしれない。
「ハッ? お前、何言ってんだよ」
「そ、そうよ。陽子ちゃん。何を言ってるの?」
はぁ・・・・・・この期に及んで、2人共、素直じゃないんだから。
此処は、やっぱり大人の振る舞いをしないといけない場面。山本さんだって、きっと高橋さんと2人だけで話もしたいだろうし、甘えたいはず。もし自分が山本さんの立場だったら、そう思うもの。自分の思いは押し殺して、スマートに対応しなければ。いつも、高橋さんが私にしてくれているように。
「いいんですよ。ちゃんと、分かってますから」
「何を分かってるんだ?」
高橋さん。
そうやって、いつも話をはぐらかせてばかり。私だって、そこまで鈍感で馬鹿じゃない。
「お2人でランチをされたいのに、私が居たらお邪魔じゃないですか」
ここまで言わせないで欲しかったな。高橋さん。
「ハッ?」
「ハッ?」 
はい?