新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

でも、まだまだ自分のことで精一杯で、人に対しての配慮が足りない。その結果、今回みたいなことになってしまう。高橋さんの部下である以上、もっと頼れる部下にとまではまだいかないにしろ、部下としての自覚を持たなければ。それが、仕事以外のことだとしても。仕事以外のことだからこそ・・・・・・。
「・・・・・・始めようか」
エッ・・・・・・。
「あっ、は、はい」
考え事をしながら書類を並べていて、高橋さんが戻ってきたことに気づかなかった。支社長との話は、何だったんだろう? 昨日の件だとしたら、解決したんだろうか? 高橋さんの隣で仕事をしながら、ふと横顔を見た時、そんな問い掛けを心の中でしていた。
ランチは、支社から近いイタリアンのお店に連れて行ってもらえることになり、朝の自己嫌悪な思いは静かに胸の奥にしまって、ニューヨークのイタリアンレストランにランチに行けることで嬉しくなりながら、お店のドアを開けてくれた高橋さんにお礼を言って中に入ると、高橋さんと会話を交わした、これまたモデル並のウェイターがにこやかに席に案内してくれた。
高橋さんの後について行くと、外からは分からなかったが奥行きの広いお店だったのでついキョロキョロしてしまった。
ウェイターが立ち止まり、椅子を引いてくれて私を座らせてくれようとした時だった。
「ちょうど良かった。私も今来たところよ」
エッ・・・・・・。
「そうか」
嘘・・・・・・。
丸テーブルの椅子に座ると、そこには山本さんが座っていた。
どうして、山本さんが此処に?
隣に座った高橋さんを、思わず見た。
「ランチのお誘い、Thank you! 貴博」
ランチのお誘いって、高橋さん・・・・・・何故?
「今日は、一段と寒いわね」
「そうだな」
会っていなかったブランクを感じさせないぐらい、ごく普通に会話を交わしている高橋さんと山本さんを冷静に間近で見ていられる自信がない。それに、山本さんだって高橋さんと2人だけで食事をしたいはず。そこに私が居るのは、やっぱり気が引ける。