新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

ああ。そうじゃない。私が言いたいことは、そうじゃないの。どうも、上手く高橋さんに伝えられない。
「高橋さん。そのアウトレットに行く話なんですけれど・・・・・・」
「ガイドブックを見て、もうリサーチしたのか? 行きたいショップがあったら、遠慮無く先に言ってくれ。行こうとしているアウトレットは、ショップごとに独立している建物で、日本でいう戸建て感覚だから、行きたいショップが離れているとかなり歩かなければならなかったり時間が掛かるから。事前に分かればその方が助かる」
高橋さん・・・・・・。
「い、いえ、そうじゃなくて・・・・・・」
「何だ?」
「その・・・・・・」
なかなか言い出しづらいな。
せっかく高橋さんがアウトレットに連れて行ってくれると言ってくれたのに、自分からキャンセルするのは。
「時間なくなるぞ。続きは、車の中で聞くから取り敢えず食べて出掛けよう」
「は、はい」
言い出せずにいて、高橋さんにそう言われて何だかホッとしてしまった。情けない。ちゃんと伝えなければ。
食器を片付けから、慌ててバッグを取りに部屋に戻って出てくると、高橋さんはすでにジャケットを着てドアの前で待っていた。
「すみません。お待たせしました」
「行こうか」
「はい」
ロビーに向かい、ポーターに部屋番号を告げて車を駐車場から出してきてもらうのを待っている間、行き交う人々を眺めていた。
朝から、みんな綺麗に身支度して楽しそうに微笑んでいる。感情表現豊かな欧米人を見ていると、こちらまで口元が自然と緩むと前に何かの雑誌で読んだことがあるが、確かにそうかもしれない。誰に気兼ねすることなく自分のペースで歩き、それぞれが自由なスタイルを楽しんでいるのが見ているだけで分かる。みんな社交的。あのご夫婦も、きっと家でもそうなんだろうな。明るく名前を 【メアリー】【なぁに? ジョン】とか、仲良く呼び合っていたりするのかも。勝手に、名前を想像しちゃったけど。
ウフッ。
もし、高橋さんと名前で呼び合ったりしたら・・・・・・ああ、無理。恥ずかしくて無理、無理。
「どうかしたのか?」
エッ・・・・・・。
「やけにニヤニヤしながらキョロキョロしているが、誰か知り合いでも居るのか?」
「そ、そうじゃないです。あっ、違います。何でもないです」
「・・・・・・」
はあ、驚いた。嫌だ。知らぬ間に、ニヤニヤしていたなんて恥ずかしい。
「行くぞ」
「えっ? は、はい」