「そうでしょう? 真の自分を見せないんだから。でもね、ここは人一倍熱いものを持ってるの。特に他人に対する思いやりは、自分を犠牲にしてでも平気で出来る男だから。それが、最大の魅力ね」
そう言って、山本さんは左胸を拳で軽く叩いて見せた。
山本さんは、高橋さんのことを何でもよく分かっているんだ。
「高橋さんのこと……何でもご存じなんですね……」
「そんな哀しい目をしちゃ駄目」
エッ……?
「だって、私が今言ったことは、ごく普通のことでしょう?」
ごく普通のこと?
「他人を思いやる気持ちって、自分の思いは置いといてというか、自分の考えや思いとはまた別次元の話。でも、その置き換えが出来なければ他人を思いやることなんて出来ないもの。だから、それもある種の自己犠牲の下で成り立っている感情だと思うから。勿論、誰しも自己犠牲だなんて自分では思ってもいなくて、ごく自然に生まれる気持ちの表れなんだろうけど。自分が今、何をすべきか? 自分は今、何をすれば相手のためになるのだろうか? それを常に頭に置いて行動してればこそ、出来ることなんだけどね」
山本さんは、私に何が言いたいんだろう?
「あの……」
「もっとも、貴博の私生活やら過去にどんな経験をしてきたかとか、そんなことは全く知らないし、聞いたことも話してくれたこともないけれど。でも、そんなことは重要じゃないの。今、目の前に居る貴博をちゃんと見ていたい、見てあげたい。ただ、それだけ。だから私より身近に居る貴女には、もっともっと私の分も目の前に居る貴博の内面を理解してあげて欲しいの。これ、私からのお願いよ」
山本さん……。
「すみません。おっしゃっている意味が、よく……」
「いいの。今はまだ何も分からなくても。でも、いつか……いつか、必ず分かる時が来るから」
いつか、必ず分かる時が来る……。漠然としていて、山本さんの言っている意味が理解出来ずに返事が出来なかったが、その後、支社の人が山本さんのところに来て話し始めたので、この話はそこで終わってしまった。
釈然としないまま、レセプションを兼ねた夕食会はお開きになり、ホテルに戻るとすでに午前0時を廻っていたので初日の緊張もあって、疲れていたのか山本さんの存在や言われたことを思い出しているうちに眠ってしまっていた。
翌日も、あの強烈なhugの光景や山本さんのこと等、滅入りそうなことばかりで憂鬱になりながら重い足取りで車に乗った。
「昨日は、疲れただろう。大丈夫か?」
「えっ? あっ、大丈夫です」
いけない。高橋さんに心配を掛けてしまった。なるべく明るく振る舞わなければ。また、余計な心配を掛けてしまう。極力、下を向かないようにして笑顔で居ようと車内で心掛けた。
事務所に着くと、想像していたとおり昨日と同じ光景を見ることとなったが、奥歯を噛みしめて見ないように昨日頼まれていた書類に目を通すことに集中していた。
そう言って、山本さんは左胸を拳で軽く叩いて見せた。
山本さんは、高橋さんのことを何でもよく分かっているんだ。
「高橋さんのこと……何でもご存じなんですね……」
「そんな哀しい目をしちゃ駄目」
エッ……?
「だって、私が今言ったことは、ごく普通のことでしょう?」
ごく普通のこと?
「他人を思いやる気持ちって、自分の思いは置いといてというか、自分の考えや思いとはまた別次元の話。でも、その置き換えが出来なければ他人を思いやることなんて出来ないもの。だから、それもある種の自己犠牲の下で成り立っている感情だと思うから。勿論、誰しも自己犠牲だなんて自分では思ってもいなくて、ごく自然に生まれる気持ちの表れなんだろうけど。自分が今、何をすべきか? 自分は今、何をすれば相手のためになるのだろうか? それを常に頭に置いて行動してればこそ、出来ることなんだけどね」
山本さんは、私に何が言いたいんだろう?
「あの……」
「もっとも、貴博の私生活やら過去にどんな経験をしてきたかとか、そんなことは全く知らないし、聞いたことも話してくれたこともないけれど。でも、そんなことは重要じゃないの。今、目の前に居る貴博をちゃんと見ていたい、見てあげたい。ただ、それだけ。だから私より身近に居る貴女には、もっともっと私の分も目の前に居る貴博の内面を理解してあげて欲しいの。これ、私からのお願いよ」
山本さん……。
「すみません。おっしゃっている意味が、よく……」
「いいの。今はまだ何も分からなくても。でも、いつか……いつか、必ず分かる時が来るから」
いつか、必ず分かる時が来る……。漠然としていて、山本さんの言っている意味が理解出来ずに返事が出来なかったが、その後、支社の人が山本さんのところに来て話し始めたので、この話はそこで終わってしまった。
釈然としないまま、レセプションを兼ねた夕食会はお開きになり、ホテルに戻るとすでに午前0時を廻っていたので初日の緊張もあって、疲れていたのか山本さんの存在や言われたことを思い出しているうちに眠ってしまっていた。
翌日も、あの強烈なhugの光景や山本さんのこと等、滅入りそうなことばかりで憂鬱になりながら重い足取りで車に乗った。
「昨日は、疲れただろう。大丈夫か?」
「えっ? あっ、大丈夫です」
いけない。高橋さんに心配を掛けてしまった。なるべく明るく振る舞わなければ。また、余計な心配を掛けてしまう。極力、下を向かないようにして笑顔で居ようと車内で心掛けた。
事務所に着くと、想像していたとおり昨日と同じ光景を見ることとなったが、奥歯を噛みしめて見ないように昨日頼まれていた書類に目を通すことに集中していた。

