新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

うわっ。
さっき、パニック状態になって思いっきり泣いたので、メイクが酷いことになっている。最悪……。
慌ててメイクを直してリビングに戻ると、ほぼ同時ぐらいにワイシャツにネクタイ姿の高橋さんが部屋から出て来た。
普段着の高橋さんも、また違った感じで好きだけれど、やっぱりいつもビシッと決まっているスーツ姿が良く似合う高橋さんが好きだな。
勝手にそんなことを思いながら、高橋さんと一緒にキッチンから朝食を運んでテーブルに並べ終えると朝食を食べ始めた。
「何? 俺、泥棒にされちゃったわけか?」
うっ。
高橋さん。 いきなりさっきの勘違いの件に戻りましたね?
「そ、それは、その……」
「Don’t shoot please. とか、何とか言ってたよな?」
「だ、だって……まさか、あんなに早く、何処かに出掛けているなんて、思わなかったですから。だから、てっきり……」
「Thief?」
「い、いえ、そんな……。でも、高橋さん。いったい、こんなに朝早くから何処に行っていたんですか?」
何とか、話を逸らせようと必死だ。
「ああ。俺、毎朝走っているんだ。だから、こっちに来ても同じように走ってきた。早めに目が覚めたし」
同じように? 
「疲れないんですか?」
「もう、慣れているからね。それにしても……」
うわっ。
高橋さんのこんな感じの時の視線は、不穏なムード漂う嫌な視線。反射的に、高橋さんから思わず目を逸らせた。
「俺の部屋に入って、何をしてるのかと思えば……。ククッ……お前は盗人か?」
ぬ、盗人?
また、朝から辛辣なお言葉を……。
「盗人だなんて、人聞き悪いこと言わないで下さい。ただ、私は……」
私は……。
でも、思えばいつも勘違いしている。勘違いしたり、早合点したり、うっかりミスばかり。社会人として、何も成長出来ずに学生時代のまま。高橋さんは寛大だからいつも許してくれるけれど、内心、呆れていると思う。他の人だったら、怒り心頭な態度を示されても致し方ないぐらいのレベル。
「どうした? いつものように、ムキになって言い返さないのか?」
私、子供なんだ。幼稚で先も読めず視野が狭いから、ただ目の前のことに直ぐパニックになってしまう。
「ごめんなさい」
「ん?」
あっ……ごめんなさいじゃない。