新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

い、嫌だ。この部屋に居ることを、気づかれてしまったのかもしれない。ど、どうしよう。よくニュース等で観るように、不審な侵入者と運悪く鉢合わせをして……なんていう内容が頭に浮かんだ。まして、此処はアメリカ。銃を突きつけられたら……こ、殺される?
と、とにかく、隠れなくちゃ。
急いでドアから一番離れた場所に移動しようと、また手で触れてベッドの位置を確認しながらベッドの逆サイドに移動した。けれど、ベッドの奥は横も後ろも壁と窓なのでもう逃げようがない。這いつくばるようにしてベッドの下に潜り込もうとしたが、ベッドの下に隙間がなくて入れなかった。仕方なく、急いでその場にしゃがみ込んだまま、頭を抱えて見つからないように小さくなったが、全身が震えて息を潜めていても不安は増すばかりだった。
そして、足音が高橋さんの部屋の前で一旦止まると、とうとうドアノブを掴む音がしてドアが開き、リビングの光が部屋に射し込んだ。
うぅっ。
足音が、どんどん大きくなってきた。もう駄目かもしれない。気づかれてしまうのも、時間の問題だ。その足音がこちらに近づいてきて止まったので、蹲ったまま恐る恐る目を開けて見ると、黒いジョギングシューズらしき靴が見えた。
ううぅっ。もう駄目だ。
両手を頭の後ろで組んで、体を縮めた。
「プ、Please don’t shoot. Don’t shoot please」
「……」
すると、いきなり左腕を掴まれた。
「い、嫌! やめて。は、離して! Don’t touch me! こ、来ないで。誰か、助けて。高橋さん。助けて!」
わ、私、何をされるの?
そして、両手首を掴まれてしまった。
「は、離して! やめて!」
「おい! 俺だ。落ち着け。どうした?」