仄かに薫る高橋さんの香りに包まれ、まだ冬の寒さが残るニューヨークなのに、それはまるで早春の窓越しで陽射しを浴びながら暖炉の傍にでもいるような錯覚さえしてしまいそう。夢見心地の今、高橋さんの温もりさえあれば、カーディガンも羽織っていなくてもいい。高橋さんの温もりだけで……。何とも、身勝手で傲慢な贅沢な感情に駆られてしまう。出来ることならば、このまま夕陽が永遠に沈まないで欲しいと願わずにはいられない。
「お前も、温かいだろう?」
高橋さんが、左肩の方に顔を寄せて耳元で囁いた。
ヒャッ!
そ、そんな耳元で囁かないで。肯定するのも恥ずかしいし、否定するのも何だか……何と返事をしたらいいのか分からない。ただでさえ、高橋さんと体が密着していてこんな状態なのに。
思わず、ギュッと肩に力を込めて前を向いたまま強く目を瞑った。
「フッ……。何だ、まだ寒いのか? しょうがないな」
エッ……。
体が離れて心地よい温もりが消えてしまったので咄嗟に振り返ると、高橋さんは手に持っていた缶ビールをベランダのテーブルの上に置いた。
「キャッ……」
高橋さんが、ベランダのベンチベッドに両足を挟んで跨ったと思ったら、急に右腕を引っ張られて体が宙に浮いた。そして次の瞬間、高橋さんの両膝の間に座っていた。
ど、どうしよう。この体勢……。
スカートじゃなくてつくづく良かったと思っていると、今度は高橋さんが後ろから私の腰に手を廻してまた頭の上に顎をのせた。
「この位置からでも見えるだろう? 座った方が温かいし」
頭上で高橋さんの声がしているけれど、この体勢にただ頷くことしか出来ない。もう緊張して、呼吸が苦しいくらい。とてもゆったりとした気持ちで、夕陽を見るどころではなくなっている。けれど、緊張しながら何故かこの空間を心地よく感じているのも事実。高橋さんが傍に置いてある缶ビールに手を伸ばして飲むと、ビールを一口飲み度にその飲み込む音が密着した背中を通じてリアルに伝わってくる。夢見心地の気分を味わいながら、高橋さんのその動作の1つ1つに忙しく上下する感情を押し殺し、速くなっている心臓の鼓動を高橋さんに悟られぬよう必死で息を潜めていた。
温かい高橋さんの温もり。このまま、ずっと時が止まればいいのに……。でも、そんな願いも虚しく、夕陽は徐々に水平線へと沈んでいってしまった。
「沈んじゃった……」
「そうだな。でも、日本では見られないような煌びやかな夜の光が見られるぞ」
陽が沈んで辺りがだんだん暗くなってくると、一斉にネオンサインが灯った。
「凄く綺麗」
流石、ニューヨークといった眩しいぐらいの煌めくネオンサインに目を奪われる。
「お前。少し痩せたんじゃないか?」
「はい?」
「お前も、温かいだろう?」
高橋さんが、左肩の方に顔を寄せて耳元で囁いた。
ヒャッ!
そ、そんな耳元で囁かないで。肯定するのも恥ずかしいし、否定するのも何だか……何と返事をしたらいいのか分からない。ただでさえ、高橋さんと体が密着していてこんな状態なのに。
思わず、ギュッと肩に力を込めて前を向いたまま強く目を瞑った。
「フッ……。何だ、まだ寒いのか? しょうがないな」
エッ……。
体が離れて心地よい温もりが消えてしまったので咄嗟に振り返ると、高橋さんは手に持っていた缶ビールをベランダのテーブルの上に置いた。
「キャッ……」
高橋さんが、ベランダのベンチベッドに両足を挟んで跨ったと思ったら、急に右腕を引っ張られて体が宙に浮いた。そして次の瞬間、高橋さんの両膝の間に座っていた。
ど、どうしよう。この体勢……。
スカートじゃなくてつくづく良かったと思っていると、今度は高橋さんが後ろから私の腰に手を廻してまた頭の上に顎をのせた。
「この位置からでも見えるだろう? 座った方が温かいし」
頭上で高橋さんの声がしているけれど、この体勢にただ頷くことしか出来ない。もう緊張して、呼吸が苦しいくらい。とてもゆったりとした気持ちで、夕陽を見るどころではなくなっている。けれど、緊張しながら何故かこの空間を心地よく感じているのも事実。高橋さんが傍に置いてある缶ビールに手を伸ばして飲むと、ビールを一口飲み度にその飲み込む音が密着した背中を通じてリアルに伝わってくる。夢見心地の気分を味わいながら、高橋さんのその動作の1つ1つに忙しく上下する感情を押し殺し、速くなっている心臓の鼓動を高橋さんに悟られぬよう必死で息を潜めていた。
温かい高橋さんの温もり。このまま、ずっと時が止まればいいのに……。でも、そんな願いも虚しく、夕陽は徐々に水平線へと沈んでいってしまった。
「沈んじゃった……」
「そうだな。でも、日本では見られないような煌びやかな夜の光が見られるぞ」
陽が沈んで辺りがだんだん暗くなってくると、一斉にネオンサインが灯った。
「凄く綺麗」
流石、ニューヨークといった眩しいぐらいの煌めくネオンサインに目を奪われる。
「お前。少し痩せたんじゃないか?」
「はい?」

