「あの……」
「いいから、座って」
「でも、それじゃ、高橋さんの席が……」
成り行きで高橋さんの席に座ってしまったが、まるで高橋さんを立たせてしまったみたいで申し訳なくて立ち上がろうとしたが、両肩を高橋さんに上から押されて立てない。
「俺は、何処でも座れるし、別に立っていても構わないから」
そう言うと、高橋さんは左手でポンポンと私の左肩を叩いた。
「でも、やっ……」
「高橋さん。どちらへ?」
やっぱり私が立っていますから……と、言い掛けたところで土屋さんが口を挟んだ。
「他の席に移ります。普通に考えれば、売掛の席が空いているはずですよね?」
「そんな! 高橋さんは、こちらに座っていらして下さい。矢島さん。貴女、気を利かせて売掛の席に移動しなさいよ」
「あっ、は、はい。高橋さん。私が……」
高橋さんを立たせてまで、座りたいとは思わなかった。会計の長でもある、高橋さんを差し置いてなんて……。
「いいんだよ。何処に座っても同じだから。偶には、違う担当の人と話すのもいい」
高橋さんは、私の背中に手を置いてそう言うと、そのまま売掛の人達が座っている場所へと歩いて行ってしまった。
高橋さん……。
「もう! 何なの? 何で、融通が利かないのかしら。今時の社員は、先輩を立てるってことを知らないわよね」
誰にともなく、こちらに聞こえるように土屋さんが不満を爆発させている。
「しっかし、本当に感心するわ。ものは、言い様。恥ずかしくもなく、よくそこまで自分の都合のいいように解釈出来るわよね」
エッ……。