「全日本トラベル空輸です」
「全日本トラベル空輸? このホテルの親か」
すると、前の部屋の人達が途端に怒ったような表情になると、誰かが素早くドアを静かに閉めてしまった。
嘘……でしょ?
「何をやってるんだ。開けろ!」
ドアの閉まった音に背を向けていた男性もそれに気づくと、ドアを拳でドンドンと叩き出したが一向にドアの開く気配はなかった。
「何なんだ。お前の会社の社員は、何をやってる? いくらホテルの親会社だからといって、他人に迷惑を掛けていいということはないだろう」
「申しわけ……ありません」
怒号の連続に体が硬直してしまっていたが、それ以上に同じ会社の経理の中に居る人達にドアを閉められてしまったことがあまりにもショックだった。
「上司が居るだろう?」
エッ……。
「お前じゃ、話にならないから、お前の上司を呼んで来い」
「あの……」
此処に、高橋さんを呼んで来なければいけないの? まったく関係のない高橋さんを?
「すみません。上司は、その……何処に居るか、ちょっと……」
高橋さんに、迷惑を掛けるわけにはいかない。
「何処に居るのか分からないんだったら、電話で呼び出せばいいだろう」
ああ。謝っても、私ではもう止められない。
「早くしろ。こっちだって、睡眠時間削られる一方なんだぞ」
「は、はい。申しわけありません」
震える手で携帯をポケットから出して、アドレス帳から検索して高橋さんの携帯に電話をする。耳に押し当てた、携帯を持つ手の震えが止まらない。
左耳に、高橋さんの携帯をコールする音が聞こえた。
エッ……。
あれ?
左耳に当てている携帯から聞こえるコール音が、次第に大きくなって、本来聞こえるはずのないエレベーターホールの方から聞こえてきた。
「もしもし」
「も、もしもし、高橋さんですか?」
慌てて携帯を持ったまま、男性に背を向けた。
「あの……今、お話ししても……」
「後ろ」
「えっ?」
「後ろに居る」
振り向くと、前から携帯を右耳に当てていた高橋さんが歩いてくるのが見えた。
「高橋さん……」
すると、高橋さんは携帯を切ってポケットに入れると、足早にこちらに歩いてきた。
「高橋? お前の上司か?」
「は、はい」
嘘を言っても始まらない。その声に反応した男性も、振り返っていた。
「どうした?」
「あ、あの……」
高橋さんは傍まで来ると、男性との間に割って入るように私の前に立った。
「貴方が、この人の上司か? ん?」
「はい。申し遅れました。私、全日本トラベル空輸の高橋と申します」
そう言いながら、高橋さんはジャケットの内ポケットから名刺入れを名刺を出して、男性に差し出した。
すると、男性は名刺をまじまじと見ながら、何故か首を傾げながら高橋さんを見ている。
「もしかして、近田教授のゼミに居た高橋か?」
近田教授?
「はい。そうですが……」
高橋さんも、疑問符を付けたような応え方をしている。
「覚えてるか? 戸田だ。確か、俺が4年の時、2年で入会面接した……」
「思い出しました。戸田さん。その節は、お世話になりました」
高橋さんは、男性に向かってお辞儀をした。
「無理もないよな。擦れ違いで2、3回しか会ってないんだから。でも、俺ははっきり覚えてる。ゼミへの入会動機のレポートが、あまりにも斬新だったからな」
「そうですか。恐縮です」
「高橋は、全日本トラベル空輸に就職したのか」
この男性、戸田さんという人は、高橋さんの知り合いなの?
「はい。うちの社員がご迷惑をお掛けしたようで、申しわけございません」
高橋さんは、何故知っているの?
「ああ。非常識にもほどがある。時間というものがあるだろう? こんな時間にドアを開けっ放しで2部屋で騒ぎ捲られたら、幾ら神経図太い人間でも煩くて眠れない。いい加減、我慢の限界で出て来てみたら、宝探しゲームでも始めるつもりだったのか、もっとエスカレートするところだった」
「全日本トラベル空輸? このホテルの親か」
すると、前の部屋の人達が途端に怒ったような表情になると、誰かが素早くドアを静かに閉めてしまった。
嘘……でしょ?
「何をやってるんだ。開けろ!」
ドアの閉まった音に背を向けていた男性もそれに気づくと、ドアを拳でドンドンと叩き出したが一向にドアの開く気配はなかった。
「何なんだ。お前の会社の社員は、何をやってる? いくらホテルの親会社だからといって、他人に迷惑を掛けていいということはないだろう」
「申しわけ……ありません」
怒号の連続に体が硬直してしまっていたが、それ以上に同じ会社の経理の中に居る人達にドアを閉められてしまったことがあまりにもショックだった。
「上司が居るだろう?」
エッ……。
「お前じゃ、話にならないから、お前の上司を呼んで来い」
「あの……」
此処に、高橋さんを呼んで来なければいけないの? まったく関係のない高橋さんを?
「すみません。上司は、その……何処に居るか、ちょっと……」
高橋さんに、迷惑を掛けるわけにはいかない。
「何処に居るのか分からないんだったら、電話で呼び出せばいいだろう」
ああ。謝っても、私ではもう止められない。
「早くしろ。こっちだって、睡眠時間削られる一方なんだぞ」
「は、はい。申しわけありません」
震える手で携帯をポケットから出して、アドレス帳から検索して高橋さんの携帯に電話をする。耳に押し当てた、携帯を持つ手の震えが止まらない。
左耳に、高橋さんの携帯をコールする音が聞こえた。
エッ……。
あれ?
左耳に当てている携帯から聞こえるコール音が、次第に大きくなって、本来聞こえるはずのないエレベーターホールの方から聞こえてきた。
「もしもし」
「も、もしもし、高橋さんですか?」
慌てて携帯を持ったまま、男性に背を向けた。
「あの……今、お話ししても……」
「後ろ」
「えっ?」
「後ろに居る」
振り向くと、前から携帯を右耳に当てていた高橋さんが歩いてくるのが見えた。
「高橋さん……」
すると、高橋さんは携帯を切ってポケットに入れると、足早にこちらに歩いてきた。
「高橋? お前の上司か?」
「は、はい」
嘘を言っても始まらない。その声に反応した男性も、振り返っていた。
「どうした?」
「あ、あの……」
高橋さんは傍まで来ると、男性との間に割って入るように私の前に立った。
「貴方が、この人の上司か? ん?」
「はい。申し遅れました。私、全日本トラベル空輸の高橋と申します」
そう言いながら、高橋さんはジャケットの内ポケットから名刺入れを名刺を出して、男性に差し出した。
すると、男性は名刺をまじまじと見ながら、何故か首を傾げながら高橋さんを見ている。
「もしかして、近田教授のゼミに居た高橋か?」
近田教授?
「はい。そうですが……」
高橋さんも、疑問符を付けたような応え方をしている。
「覚えてるか? 戸田だ。確か、俺が4年の時、2年で入会面接した……」
「思い出しました。戸田さん。その節は、お世話になりました」
高橋さんは、男性に向かってお辞儀をした。
「無理もないよな。擦れ違いで2、3回しか会ってないんだから。でも、俺ははっきり覚えてる。ゼミへの入会動機のレポートが、あまりにも斬新だったからな」
「そうですか。恐縮です」
「高橋は、全日本トラベル空輸に就職したのか」
この男性、戸田さんという人は、高橋さんの知り合いなの?
「はい。うちの社員がご迷惑をお掛けしたようで、申しわけございません」
高橋さんは、何故知っているの?
「ああ。非常識にもほどがある。時間というものがあるだろう? こんな時間にドアを開けっ放しで2部屋で騒ぎ捲られたら、幾ら神経図太い人間でも煩くて眠れない。いい加減、我慢の限界で出て来てみたら、宝探しゲームでも始めるつもりだったのか、もっとエスカレートするところだった」

