「あーあ。これじゃ、幾つ体があっても足りないわね。高橋は」
黒沢さん達に取り囲まれてしまい、高橋さんは会計のテーブルを通り過ぎて黒沢さん達のテーブルの方に行ってしまった。
何だろう? この疎外感。分かっている。高橋さんは私だけのものじゃないし、今日は部内旅行なんだから。頭では分かっているのに、どうしても欲が出てしまう。独占欲が強いのかな? そんなことはないと思っていたけれど、強くなってしまったのかもしれない。気をつけなきゃ。黒沢さん達は、何も悪いことをしているわけじゃないんだもの。でも……。
宴会場は明るいのに、哀さというか寂しい気持ちでいっぱいだった。
「どうしたの? そんな暗い顔して」
これ以上、折原さんに心配掛けたくないし、宴会場に居てもあまり意味がないようなかんじだから部屋に帰って寝ようかな。
「折原さん。私、部屋に戻りますね」
「そうなの? 誰と一緒の部屋?」
「それが、同室だった方が急遽来られなくなったみたいで、1人なんです」
「そう。それなら出張も控えているし、早く寝た方がいいわね」
「はい。一緒に居て下さって、ありがとうございました。おやすみなさい」
「おやすみ。また明日ね」
足早に宴会場を後にして部屋に戻る途中、エレベーターホールや通路で話し込んでいる人達に遭遇したが、会釈だけして急いで部屋に入って鍵を閉めた。
鍵を閉めて部屋を見渡しながら、見えない緊張感から解き放たれたのは良かったが、同時に自己嫌悪に陥った。
何だか暗いな、私って。
本来、部内の人達との親交を深める意味での旅行なのに、これではいつもの生活と変わらない。仕事が終わって誰も居ない部屋に帰ってきて、ご飯を食べて後は寝るだけで……。
でも、あの場所に居たら、もっとみじめな思いをしたかもしれない。ずっと、高橋さんが席に来てくれるのを待っていて、その間に見たくない光景まで目にしてしまうのは、もうこれ以上ちょっと堪えられなかった。
同じホテルの中で、こんなに近くに居るのに高橋さんが遠い。とても、遠い存在に感じる。部内旅行に参加しない方が良かったのかな。
シャワーでも浴びて、体を温めれば少し沈んだ気持ちも直るかもしれないと思い、持ってきたバッグの中からお風呂セットを出した時だった。
外で大声で話しながら何処かの部屋のドアを開ける音と、大人数で入っていく足音が聞こえた。
この階に、経理以外のお客さんが泊まっていないといいんだけど……。部屋の中からでも、ハッキリと聞こえる声。もしかしたら、ドアを開けっ放しにしているのかもしれない。さかんに笑い声や何度も乾杯をする声が聞こえてきて、これじゃ、騒々しくて落ち着いてシャワーも浴びられない。どうやら大騒ぎをしている部屋は直ぐ目の前の部屋のようで、ドアスコープから覗くと直ぐ目の前の部屋のドアが開けっ放しになっていた。
最初のうちは、 『静かに!』 と注意している女子の声も聞こえていたが、それも最初のうちだけで、次第に段々と大声を出したり缶ビールの缶同士をぶつけ合うような音を鳴らしたりとエスカレートしていった。
此処に居たら、きっと朝まで眠れないかもしれない。時計を見ると、まだ終電には間に合う時間だった。
帰ろう。もし、終電がなくなってしまっていたらタクシーで。
一旦、バッグから出してあったお風呂セットをまたバッグに急いでしまうと、忘れ物はないかどうかを確認してコートを羽織り、部屋のカードキーを持ってドアを開けた。
すると、目の前の部屋のドアはやはり開いていて、部屋の中に居る男子社員と目が合った。
「あれ? バッグ持って、何処行くの? 彼氏の家?」
「い、いえ、ちょっと……」
黒沢さん達に取り囲まれてしまい、高橋さんは会計のテーブルを通り過ぎて黒沢さん達のテーブルの方に行ってしまった。
何だろう? この疎外感。分かっている。高橋さんは私だけのものじゃないし、今日は部内旅行なんだから。頭では分かっているのに、どうしても欲が出てしまう。独占欲が強いのかな? そんなことはないと思っていたけれど、強くなってしまったのかもしれない。気をつけなきゃ。黒沢さん達は、何も悪いことをしているわけじゃないんだもの。でも……。
宴会場は明るいのに、哀さというか寂しい気持ちでいっぱいだった。
「どうしたの? そんな暗い顔して」
これ以上、折原さんに心配掛けたくないし、宴会場に居てもあまり意味がないようなかんじだから部屋に帰って寝ようかな。
「折原さん。私、部屋に戻りますね」
「そうなの? 誰と一緒の部屋?」
「それが、同室だった方が急遽来られなくなったみたいで、1人なんです」
「そう。それなら出張も控えているし、早く寝た方がいいわね」
「はい。一緒に居て下さって、ありがとうございました。おやすみなさい」
「おやすみ。また明日ね」
足早に宴会場を後にして部屋に戻る途中、エレベーターホールや通路で話し込んでいる人達に遭遇したが、会釈だけして急いで部屋に入って鍵を閉めた。
鍵を閉めて部屋を見渡しながら、見えない緊張感から解き放たれたのは良かったが、同時に自己嫌悪に陥った。
何だか暗いな、私って。
本来、部内の人達との親交を深める意味での旅行なのに、これではいつもの生活と変わらない。仕事が終わって誰も居ない部屋に帰ってきて、ご飯を食べて後は寝るだけで……。
でも、あの場所に居たら、もっとみじめな思いをしたかもしれない。ずっと、高橋さんが席に来てくれるのを待っていて、その間に見たくない光景まで目にしてしまうのは、もうこれ以上ちょっと堪えられなかった。
同じホテルの中で、こんなに近くに居るのに高橋さんが遠い。とても、遠い存在に感じる。部内旅行に参加しない方が良かったのかな。
シャワーでも浴びて、体を温めれば少し沈んだ気持ちも直るかもしれないと思い、持ってきたバッグの中からお風呂セットを出した時だった。
外で大声で話しながら何処かの部屋のドアを開ける音と、大人数で入っていく足音が聞こえた。
この階に、経理以外のお客さんが泊まっていないといいんだけど……。部屋の中からでも、ハッキリと聞こえる声。もしかしたら、ドアを開けっ放しにしているのかもしれない。さかんに笑い声や何度も乾杯をする声が聞こえてきて、これじゃ、騒々しくて落ち着いてシャワーも浴びられない。どうやら大騒ぎをしている部屋は直ぐ目の前の部屋のようで、ドアスコープから覗くと直ぐ目の前の部屋のドアが開けっ放しになっていた。
最初のうちは、 『静かに!』 と注意している女子の声も聞こえていたが、それも最初のうちだけで、次第に段々と大声を出したり缶ビールの缶同士をぶつけ合うような音を鳴らしたりとエスカレートしていった。
此処に居たら、きっと朝まで眠れないかもしれない。時計を見ると、まだ終電には間に合う時間だった。
帰ろう。もし、終電がなくなってしまっていたらタクシーで。
一旦、バッグから出してあったお風呂セットをまたバッグに急いでしまうと、忘れ物はないかどうかを確認してコートを羽織り、部屋のカードキーを持ってドアを開けた。
すると、目の前の部屋のドアはやはり開いていて、部屋の中に居る男子社員と目が合った。
「あれ? バッグ持って、何処行くの? 彼氏の家?」
「い、いえ、ちょっと……」

