「個人的な口約束より、会社のマニュアルに乗っ取ったまでです」
「会社のマニュアルって、高橋さん。今は、勤務時間じゃないですよ?」
物凄い剣幕で、美奈という人と一緒に居た出納の人が高橋さんに詰め寄った。
「美奈は、怪我をしているんです。確かに、美奈が前を見ていなかったのもいけなかったかもしれないけど、高橋さんにもそれなりに非があると思います」
「……」
高橋さん……大丈夫かな。黙ってしまった。
何だか、変な言い掛かりをつけられてしまった気がする。
「本性丸出し」
エッ……。
「折原さん?」
「とうとう、本音が出たって言ったの。最初から、高橋狙いだったんでしょうよ。だから、故意的にぶつかって難癖つけて近づこうって魂胆。見え見えで、分かりやすい」
「そんな……」
高橋さんに、わざとぶつかったなんて。
「大丈夫よ。高橋なら」
折原さん。
折原さんは、顔を私の耳元に近づけた。
「この私にでも分かりきってることが、あの高橋に読めないわけがないでしょう? 高橋は、もうその先を読んで手を打ってるはず」
その先を読んで……?
「高橋さーん。そんな堅苦しい話は抜き、抜き。早く、お部屋に連れて行ってくださーい」
「いやー、君達。待たせて悪かったな。ちょっと、トイレに行ってたものだから」
「お手数お掛けします」
「課長」
高橋さんが、後ろから大きな声を出しながら近づいてきた出納の課長に一礼した。
「出た、小柳。アッハ……面白くなってきた」
「お、折原さん。何が、面白くなってきたんですか?」
私なんて、高橋さんのことが心配なのと、美奈という人の高橋さんに対する馴れ馴れしい態度にヤキモキしているというのに。
「課長。何ですか?」
美奈という人が、訝しげな表情で問い掛けた。
「さっき、高橋さんから電話をもらって詳細は聞いたよ。荒川君。怪我をしたらしいが、大丈夫なのか? そんなにアルコールなんか飲んで」
電話?
すると、美奈という人が高橋さんを睨み付けた。
「痛むのなら、これから直ぐ病院に行きなさい。高橋さんも、こうして心配して私に電話をくれたぐらいなのだから。酷くならないうちに、医者に診てもらった方がいいぞ?」
「高橋さん! 何で、課長に言ったりするんですか?」
「……」
「何でだね? 心配して、わざわざ上司の私に知らせてくれたんだ。そんな言い方をしてはいけないよ、荒川君。高橋さん。失礼な言い方をして申し訳ない。」
出納の課長は、高橋さんに恐縮そうな表情でお辞儀をした。
「勤務時間外なんですから、課長に余計な心配を掛けないで下さい」
お門違いとも取れる言い方で、美奈という人は高橋さんに食って掛かった。
「矢島ちゃん。あの小柳って課長は、本当に絵に描いたようなマニュアル人間とでもいうのかな。基本に忠実、教科書通りのマネージメントをすることで有名なの。だから、物事を脇道に逸れた通し方が出来ない人。良く言えば、真面目。悪く言えば、融通が利かないの」
そういって、折原さんは舌を出した。
「荒川君。上司に向かって、そういう口の聞き方は良くない。謝りなさい」
「謝って欲しいのは、こっちの方よ。怪我をさせられて、上司にチクられて踏んだり蹴ったりだわ」
「荒川君。だから、病院に行ったらいい。それからのことを心配しているんだったら、私が相談に乗るから」
「もう、いいです! 病院も行かなくて大丈夫ですから。高橋さん。見損なったわ」
「……」
「行きましょう」
そう言うと、美奈という人とあとの2人は怒り心頭といった体で椅子から立ち上がった。
「美奈。大丈夫?」
「大丈夫よ、これぐらい。男のくせに、女に怪我させといて直属の上司にチクって逃げるなんて最低!」
酷い。そんな言い方しなくても……。
「会社のマニュアルって、高橋さん。今は、勤務時間じゃないですよ?」
物凄い剣幕で、美奈という人と一緒に居た出納の人が高橋さんに詰め寄った。
「美奈は、怪我をしているんです。確かに、美奈が前を見ていなかったのもいけなかったかもしれないけど、高橋さんにもそれなりに非があると思います」
「……」
高橋さん……大丈夫かな。黙ってしまった。
何だか、変な言い掛かりをつけられてしまった気がする。
「本性丸出し」
エッ……。
「折原さん?」
「とうとう、本音が出たって言ったの。最初から、高橋狙いだったんでしょうよ。だから、故意的にぶつかって難癖つけて近づこうって魂胆。見え見えで、分かりやすい」
「そんな……」
高橋さんに、わざとぶつかったなんて。
「大丈夫よ。高橋なら」
折原さん。
折原さんは、顔を私の耳元に近づけた。
「この私にでも分かりきってることが、あの高橋に読めないわけがないでしょう? 高橋は、もうその先を読んで手を打ってるはず」
その先を読んで……?
「高橋さーん。そんな堅苦しい話は抜き、抜き。早く、お部屋に連れて行ってくださーい」
「いやー、君達。待たせて悪かったな。ちょっと、トイレに行ってたものだから」
「お手数お掛けします」
「課長」
高橋さんが、後ろから大きな声を出しながら近づいてきた出納の課長に一礼した。
「出た、小柳。アッハ……面白くなってきた」
「お、折原さん。何が、面白くなってきたんですか?」
私なんて、高橋さんのことが心配なのと、美奈という人の高橋さんに対する馴れ馴れしい態度にヤキモキしているというのに。
「課長。何ですか?」
美奈という人が、訝しげな表情で問い掛けた。
「さっき、高橋さんから電話をもらって詳細は聞いたよ。荒川君。怪我をしたらしいが、大丈夫なのか? そんなにアルコールなんか飲んで」
電話?
すると、美奈という人が高橋さんを睨み付けた。
「痛むのなら、これから直ぐ病院に行きなさい。高橋さんも、こうして心配して私に電話をくれたぐらいなのだから。酷くならないうちに、医者に診てもらった方がいいぞ?」
「高橋さん! 何で、課長に言ったりするんですか?」
「……」
「何でだね? 心配して、わざわざ上司の私に知らせてくれたんだ。そんな言い方をしてはいけないよ、荒川君。高橋さん。失礼な言い方をして申し訳ない。」
出納の課長は、高橋さんに恐縮そうな表情でお辞儀をした。
「勤務時間外なんですから、課長に余計な心配を掛けないで下さい」
お門違いとも取れる言い方で、美奈という人は高橋さんに食って掛かった。
「矢島ちゃん。あの小柳って課長は、本当に絵に描いたようなマニュアル人間とでもいうのかな。基本に忠実、教科書通りのマネージメントをすることで有名なの。だから、物事を脇道に逸れた通し方が出来ない人。良く言えば、真面目。悪く言えば、融通が利かないの」
そういって、折原さんは舌を出した。
「荒川君。上司に向かって、そういう口の聞き方は良くない。謝りなさい」
「謝って欲しいのは、こっちの方よ。怪我をさせられて、上司にチクられて踏んだり蹴ったりだわ」
「荒川君。だから、病院に行ったらいい。それからのことを心配しているんだったら、私が相談に乗るから」
「もう、いいです! 病院も行かなくて大丈夫ですから。高橋さん。見損なったわ」
「……」
「行きましょう」
そう言うと、美奈という人とあとの2人は怒り心頭といった体で椅子から立ち上がった。
「美奈。大丈夫?」
「大丈夫よ、これぐらい。男のくせに、女に怪我させといて直属の上司にチクって逃げるなんて最低!」
酷い。そんな言い方しなくても……。

