新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

「1番。1番です」
「矢島ちゃん。1番だって」
エッ……。
「ほら、当たってない? 此処、1番あるわよ。ちょっと、しかもビンゴじゃない!」
「えっ? あの……えっ? えっ?」
ドアの方が気になって振り返ったが、折原さんに肩を揺すられて慌ててビンゴカードを見ると、高橋さんのカードがビンゴになっていた。
「ビンゴよ、ビンゴ!」
「で、でも、これは……このカードは高橋さんのな……」
「そんなこと、どうだっていいのよ。ビンゴー! ビンゴです」
「オッ! どちらかで、ビンゴの声がー? どちらのテーブルからでしょう? 初のビンゴですよー」
「ちょっ……あの、折原さん。困ります。これは……」
進行役の人に聞こえてしまったのか、大きな声で捜されている。
「此処です。此処、此処」
「あっ。売掛の席からのようですねー」
すると、進行役の人がマイクを持ってこちらに向かってくる姿をスポットライトが映し出していた。
どうしよう……。私じゃないのに。
「おめでとうございます! 早かったですねー」
「い、いえ、あの……」
「やったね。矢島ちゃん」
「それでは、矢島さん。経理部長より賞品の授与がございますので、ステージまでお願いします」
そ、そんな……無理。
「いえ、あの私は……」
「いいから、行っちゃいなさい。高橋だって喜ぶから。後で話せばいいでしょう?」
折原さんが耳元でそう囁くと、無理矢理私を立たせた。
「さあ、行って」
「あ、あの……」
「急いで下さい。矢島さん。あまり部長を待たせると、また経理の仕事は迅速且つ、正確に。と、言われてしまいますよ?」
経理部長の口癖を進行役の人が真似をすると、一斉に会場から笑いが起こった。
何故か、ビンゴでもないのにステージに上がってしまい、どうしていいのか舞い上がったまま、経理部長から賞品を受け取ってお辞儀をしてから会場に向かってお辞儀をして急いで顔を上げると、ドアの横の壁にもたれ掛かって腕を組んで微笑みながら立っている高橋さんの姿が目に飛び込んできた。
高橋さん。