新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

高橋さんが、そっと左手の人差し指で涙を拭ってくれた。
「ごめんなさい」
「何で、お前が謝る?」
「でも……」
「悪かった。なかなか、言い出せなくて」
「高橋さん」
「もう泣くな」
そう言うと、高橋さんが私を引き寄せて抱きしめた。
「動揺してた」
高橋さんの胸の中で、その声が耳に響いた。
「高橋さんでも……動揺することあるんですか?」
「勿論」
「そうは、見えないですけど」
涙声になってしまっていたが、居心地の良い高橋さんの胸に顔を押しつけながら目を閉じたまま話していた。
「フッ……。あるに決まっているだろう? 俺だって、人間なんだから」
でも、動揺してたって言ったけど……。
「何に、動揺していたんですか?」
「ハッ? お前、俺をからかってんのか?」
いきなり高橋さんが私の両腕を持って体を離し、顔を覗き込んだ。
「そ、そんなことないです。ただ……」
「ただ?」
「もしかして、私のことを心配して動揺してくれちゃったのかなぁ? なんて、思ったりしたもんですから。その……」
少しだけ……少しだけ大人になったかな? 重い空気を変えないといけないと思って、必死に考えて出たジョーク。
「オ・タ・ン・コ・ナ・ス」
「ングッ」
「ハハッ! 変な声」
「高橋さん!」
「はい」