新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

あっ!
此処って、もしかして?
「あの、此処ってロックフェラーセンターですか?」
「正解」
「よく。テレビでクリスマスツリーの点灯式の場面を放送していますよね」
「ああ、そうだ。その場所に今立って居る」
そうなんだ。
確かに、このシチュエーションで巨大なクリスマスツリーが設置されて、煌びやかな点灯式の模様がテレビで映し出されている。
「さっき話したように、この場所に本来クリスマスツリーがあれば、とても豪華で綺麗な場所になる。でも、今はその雰囲気さえないよな。在るべき場所にクリスマスツリーがあれば、落ち着くのと同じよう。人の人生も、居るべき人がそこに居ないと落ち着かないと思う場面が、大なり小なり幾つかあると思う」
高橋さんは、何を私に伝えたいんだろう?
「気づいてたんだよな? 俺の様子がおかしかったことに……お前は」
エッ……。
あまりに突然言われたので、驚いて高橋さんの顔を見上げた。
「そうなんだろう?」
思わず、黙って頷いてしまっていた。
「日曜日、ブルックリンから戻ってくる途中で、昔好きだった人と擦れ違った」
胸が、キュッと締め付けられるように痛い。高橋さんの口から昔好きだった人と聞いただけで。
「同時に、何も成長していない自分に呆れていた。吹っ切れたと思っていた感情が、どうにも乱れて仕方がなかったから。俺は、何も学習していなかったんだよな」
高橋さん。そんな哀しそうな目で、空を見上げないで。
「吹っ切れたと思っていたのに、心が乱れていた。彼女は、もう昔のことなど忘れて新しい人生を歩んでいるっていうのに。フッ……。現に、俺に気づきもしなかった」
「高橋さん……」
「こんな広い世界で、しかもニューヨークで擦れ違うなんて奇跡に近いよな。逆に、学習していない進歩のない俺を見かねて、誰かが何か仕組んだんじゃないかと勘ぐってしまったぐらいだ」
「高橋さん。もう、そんなに自分を責めないで下さい」
高橋さんがミサさんを忘れられないことは、十分過ぎるほど分かっている。私の入る隙間等、ないことも。それでも、私は……。