新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

「矢島さん。1番に電話」
急に、太田さんに呼ばれて急いで電話に出た。
「もしもし、陽子ちゃん? 勝手に話すから、返事だけしてくれればいいから」
「は、はい」
電話の相手は、かおりさんだった。
「さっきの話なんだけれど」
「はい」
「貴博のことは、気にすることないみたい。心配ないから」
「えっ?」
「ほら、返事だけにしないと、貴博にバレちゃうわよ。近くに居るんでしょう? 貴博」
「あっ、はい」
「そういうことだから。陽子ちゃんは、何も心配しないで貴博を信じていればいいんだからね。分かった?」
「はぁ……あっ、は、はい」
「それじゃ、またね」
「はい。ありがとうございました。失礼致します」
『貴博のことは、気にすることないみたい。心配ないから』 って……本当に? 本当に、心配しなくても大丈夫なの? かおりさんに言われたことが、疑心暗鬼というか、額面通りに受け取れなかった。高橋さんのこと、本当に心配しなくて大丈夫なんだろうか?
「誰から電話だったんだ? 本社か?」
「えっ?」
後ろを通りかかった高橋さんに、問い掛けられてしまった。
「あ、あの山本さんからでした」
「そう」
それ以上、高橋さんも触れなかったので、気持ちを落ち着けようと書類を持ってコピー機の方へと向かった。
高橋さん。本当に、何でもないのかな? 
私が心配する必要はないぐらい、しっかりしている大人な高橋さん。かおりさんは、心配ないと言っていたけれど……。でも、何だかとても気になる。気になって、仕方がない。
日曜日の夕方から、高橋さんの様子が普段と違ってしまった。そう、日曜日の夕方……あのブルックリンの橋を渡って、ホテルに帰ってきてから。
ニューヨークでの最後の仕事を終えてホテルに戻り、着替えをして支社が用意してくれた立食パーティー会場へと向かった。
足取りが重い。ニューヨークの支社の人達と会える、最後の夜だというのに。
「どうかしたのか?」
エッ……。
「い、いえ、何でもありません」
今は、気持ちを切り替えなければ。せっかく、皆さんが用意して下さったパーティーなのだから。
立食パーティーで、太田さんやお世話になった人達に挨拶を一通り済ませ、ジュースを持って椅子に座って休んでいたが、どうしても無意識に高橋さんの姿を捜してしまう。
離れた場所から見る高橋さんは、いつもと変わらない。不思議だな。思い過ごしじゃないかと、思ってしまう。でも……。
「楽しんでるか?」
「はい」
「遠慮しないで、沢山食べろよ」
「はい。ありがとうございます」