新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

すると、我に返ったように高橋さんが私の顔を見た。
「いや、何でもない。行こうか」
高橋さん……。
その後、橋を渡ってマンハッタンのホテルに戻る途中、高橋さんは何か物思いに耽っているのか、あまり会話がなかった。何か心配事でもあるのかな?
でも、思い当たる事といったら先ほどの親子と擦れ違ってからだ。あの親子と、何かあるのだろうか? 気になって仕方がなかったが、結局そのことに関して聞くことが出来ないままホテルに着いてしまった。
しかし、やはり気になったので今がチャンスと思い、部屋に向かうエレベーターの中で勇気を出して聞いてみた。
「高橋さん。何か……あったんですか?」
「ん? 何で?」
高橋さんは少しだけ微笑んだが、その笑顔の中に隠された哀しそうな瞳を見逃さなかった。その哀しそうな瞳。その瞳に映っている私は今、高橋さんにはどう映っているのだろう? それでも、いつもと何かが違うことだけはこの私にも見て取れた。
「あの……さっき橋の上で擦れ違っ……」
「悪い。ちょっと、疲れたのかもしれない。先に、シャワー浴びてきてもいいか?」
「えっ? あっ、はい」
「悪いな。体が冷え切って、思考能力ゼロに近い」
そうだったんだ。
「い、いえ、とんでもないです。それなら、早くシャワー浴びて温まって下さい。高橋さん。無理しないで下さいね。シャワー浴びたら、少し横になられた方がいいかもしれません」
「ありがとう。温まれば大丈夫だ。その後、晩ご飯にしような」
「はい」
高橋さんは、部屋のドアを閉めながらそう言ってくれた。
もしかしたら、昨日のアウトレットの疲れもあったのかもしれない。ずっと私を捜してくれていたし、今日もいろんな所を案内してくれたからその疲れも出たんじゃ……。
ニューヨークの冬は寒い。日中は、陽が出ればだいぶ暖かく感じられるが、朝晩はグッと気温が下がって寒い。明日からまた仕事だし、風邪をひいてしまったら大変だ。何か、栄養のある温まる食事を作らなきゃ。
急いで着替えてキッチンに向かい、冷蔵庫の食材を見て何か温まるものを作ろうと思ったが、ジャガイモと人参ぐらいしか目に入ってこなかったので、取り敢えずベーコンとコンソメを使って根野菜のスープを作っていると、高橋さんが部屋から出て来た。