新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

「さて、また橋を渡ってマンハッタンに戻ろう。まだ、歩ける余力は残っているか?」
「はい。もうお腹がいっぱいで、少し歩いて運動しないと駄目です。私」
「ハハッ……そうだな。かなり、食べたからな」
「そうなんです。でも、みんな美味しくて。ついつい、食べ過ぎました」
ブルックリンの街を歩いてから見るブルックリン側から見たマンハッタンは、ブルックリンに入る前とはまた違う顔をしてように見えた。近代的なビルが建ち並び、いろんな意味で最先端をいっている街に見える。
「あっ……。そう言えば、高橋さん。歩いていてたびたび見掛けたのですが、この標識の文章はどういう意味なのですか?」
「ああ、これか。ブルックリンは見た通り、色々な文化、民族、人種が集まって出来ている街で、誰でも受け入れてくれる街でもある。直訳すると、How sweet it is, Home to everyone from everywhere. なんて魅力的なんだろう。あらゆる場所から来た、あらゆる人々の故郷に。つまり、ブルックリンは、そういう街。という意味だ」
「あらゆる場所から来た、あらゆる人々の故郷に……」
「勿論、俺達も含めて」
「私達……も」
「ああ。そういう街。そういう国。あらゆる人々を受け入れてくれる、自由の国。それがアメリカだ」
あらゆる人々を受け入れてくれる、自由の国。
「何か、スケールが大きいですね」
「そうだな」
マンハッタンのビルの壁面を染め始めた夕陽を眩しく感じながら、高橋さんと並んで橋を渡っている。昨日は、あんなに心が忙しなかったのに、今日はこんなに穏やかに過ごせている。何だか、不思議だな。
「少しは、こっちのスピードにも慣れたか? いろんな意味で、日本とサイクルが違うが」
「はい。皆さん、歩くのが早くて戸惑いましたが、それ以外、私はこのサイクルが好きです」
「フッ……。そうだな。気ぜわしい東京の生活スピードの速さよりも、お前のゆっくりとしたリズムには、合っているのかもしれない。出張に、お前を一緒に連れてきて良かった」
優しく微笑みながら、高橋さんがこちらを見てくれた横顔に夕陽が映されて、ほんのりオレンジ色に染まって見えた。その微笑んだ横顔が堪らなくセクシーで、思わず見とれてしまった。
「高橋さん……」
「ママ。早く、早く」
あれ?
「ママ、早く。夕陽が沈んじゃう」
日本人?
「走っちゃ駄目よ。人にぶつかるから」
久しぶりに、子供の声の日本語を聞いた気がした。
「何だか、懐かしく感じちゃいます。子供の日本語が。変ですよね、まだこっちに来て1週間ぐらいしか経っていないのに」
「……」