新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

「そんなには……ってことは、少しはあるってことよ? 陽子ちゃん」
「そ、そうかもしれないですが、でも猛獣までは、その……」
「アハハ。陽子ちゃんと話していると、楽しいわ」
かおりさん。
思わず恥ずかしくて下を向いていると、いつの間にかサーバーがテーブル横に立っていた。
かおりさんが高橋さんにメニューを渡すと、高橋さんが先ほどかおりさんが言っていたものを流暢な英語でオーダーした。
「完璧。話を聞いていないようで、貴博はちゃんと聞いてるのよね。そこが魅力なんだけど、そこがまた怖いのよ。さて、メインは何にしようかしら?」
「それ、褒め言葉か?」
「勿論よ。やっぱり、此処に来たからにはチキンは外せないわよねぇ」
「そうだな」
高橋さんとかおりさんの会話を聞いているだけで、何だかこちらまで楽しくなってくる。明良さんや仁さんとの会話とは、またひと味違った感じだ。
我関せず、我が道を行くかおりさん。高橋さんの言葉を受け流しながらも、高橋さんの意見をちゃんと聞き出そうとしているかおりさん。お互いの性格を知っているからこそ、成せる技なのかもしれない。それにしても、かおりさんの高橋さんへのボディタッチは頻繁で、見ているこちらがドキドキしてしまう。でも高橋さんは、それを何とも感じていないのか避けるとか引くとかもしない。慣れてしまっているのかもしれない。
先ほど、覚えたばかりのアペタイザーが運ばれてくると、メインディッシュを高橋さんがオーダーした。
私は、よく分からないから全て2人にお任せしたが、メインディッシュと共にワインの何かをオーダーしていたのだけは分かった。
「それで? その技とやらは?」
ブルスケッタを自分のお皿に取った高橋さんが、かおりさんに問い掛けた。
「ああ。此処の予約のこと? 陽子ちゃん。此処の生ハムのブルスケッタ、ウルトラ美味しいから食べてみて」
「はい。いただきます」
かおりさんの見よう見まねで、ブルスケッタをお皿に1つ取ってひと口食べた。
うわっ。
何? このふわっとした食感。
口の中で、生ハムとチーズがミックスされた程よい塩加減とサクサクとしたフランスパンの表面の香ばしさが内側のパンの柔らかさとマッチして口の中で優しく広がっていく。
「美味しい!」
「でしょう? 生ハムにして、正解ね。トマトとモッツァレラチーズのブルスケッタも美味しいんだけど、やっぱり生ハムなのよね。良かった。泊まる甲斐があったわ」
泊まる?
「泊まるのか?」
「ええ。宿泊すると、レストランの予約が取りやすいからね。今夜は私、此処に泊まるのよ-。だから、心置きなく飲めるというもの。万歳! 何だったら、貴博も泊まってもいいわよ? ツインルームだから。ホホッ……」
かおりさん……。
何て、大胆なことを。