新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

「今日、何度目だ? 此処に来るのは」
「高橋さん……あの……」
「フッ……ジョークだ」
どうして、またこのショップに?
もしかして、先ほど試着していたスーツを買いに来たの? それとも、買った商品のピックアップに?
このショップには、さっき高橋さんの妹と勘違いされた店員さんが居て……。
「どうした? 入ろう」
「あの……」
そう言うと、高橋さんは私の手を握った。
「お前に、見て貰いたいものがある」
エッ……。
見て貰いたいもの?
もしかして、さっき試着していたあのスーツのことかな? それだったら、あまり見たくない気がする。高橋さんの妹と間違えられたりして、何だか気が進まない。
「あの……。さっき高橋さんが試着されていたスーツ。あれ、買われたんですか?」
「ん? ああ。あれは買ったけど、あのスーツがどうかしたのか?」
「えっ? い、いえ、その……あのスーツを見せて下さるのかなぁ? なんて思ったものですから」
今の高橋さんの口ぶりだと、あのスーツを見せたいんじゃないの? だったら、何を私に?
すると、高橋さんが店員さんに声を掛けて少し待っていると、店員さんが白い袋を2つ大事そうに持って来て、ガラスケースの上に置くと、その白い布製の袋からバッグを取り出した。
「どっちがいいと思う?」
エッ……。
「どっちって……。その人の好みもあるでしょうし……」
「そうだな」
高橋さん。何で、私に聞くんだろう?
まさか、高橋さん。彼女へのお土産? まさか……ね。
「あ、あの、どなたかのお土産ですか?」
「ああ。ちょっとな」
もし、もし万が一、そうだとしたら。高橋さんの神経を疑ってしまう。そういう大切な人へのお土産は自分で選ぶべきだし、貰う方だってその人がわざわざ選んでくれたんだと思うから尚更嬉しいんだもの。
ハッ!
ということは、今まで高橋さんが私に買ってきてくれたお土産も、もしかして……ううん。高橋さんは、そんなことをするような人じゃない。高橋さんに限って、そんなこと有り得ない。でも……。
「それなら、私の意見なんか参考にしないで、高橋さんがいいなと思われた方を買うべきじゃないですか?」
「……」
高橋さんは、何もそのことに対して応えようとしない。これは、やっぱり……。
「絶対、その方がいいと思います。私、入り口の所で待っていますから、どうぞゆっくり選ばれて下さい」
「外は寒いから、直ぐ……」
「大丈夫です。入り口の所に居ます。何処にも行きませんから!」
高橋さんの言葉を遮るように、半ば言い切ってその場を離れた。
何を怒っているんだろう。自分でも、よく分からない。だけど、何だか腹立たしい。
きっと、私が高橋さんに言ったことで何も高橋さんは言い返して来なかったのは、珍しく私の言ったことが正論だったからだ。我ながら上出来というか、常識的な見解だったと思う。そんな風に思えてしまう自分にも嫌気がさす。そして、こんな状況でも、あのバッグが誰のお土産なのかが気になっている自分にも。
「お待たせ」
エッ……。
「も、もういいんですか?」
「ああ」
「もっと、ゆっくりご覧になっていて構わなかったのに」
何だか、嫌味のある言い方になってしまっている。
「ありがとう。それじゃ、行こうか」
「はい」
何だろう?
心なしか、高橋さんの態度が冷たく感じられる。気のせいかな。
あれ?
ふと見ると、高橋さんはショッピングバッグを1つも持っていない。
何故?