新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

「あっ。は、はい。すみません」
高橋さんの声に慌てて我に返り、ギュッと握っていた高橋さんの手を離した。無意識のうちに、高橋さんの手を強く握っていたらしい。
高橋さんは店員さんと短い会話を交わすと、暫くして店員さんがシューズの箱を2つ持って来た。
床に屈んで1つの箱の蓋を開けて高橋さんに話し掛けながら左足の靴を出すと、その靴を高橋さんは履いてみて、直ぐに脱いで箱に戻してもう1足の違うデザインの靴を履き、それもまた直ぐ脱いだ。
高橋さんは、自分の靴に履き替えながら店員さんと会話を交わすと、店員さんは2足とも箱に戻して蓋をした。そして、こちらに向かってニッコリ微笑みながら立ち上がると、高橋さんに話し掛けながら歩き出した。
「行こう」
「あっ。はい」
高橋さんの後ろからついていくと、レジで高橋さんがカードを出していた。
も、もう決めちゃったの?
あんなに早く?
「あの……」
店員さんが靴をパッキングしている間に、高橋さんに話し掛けた。
「もう、決まったんですか?」
「ああ」
早すぎる。
「でも、もっとちゃんと履いてみなくて良かったんですか? 私でしたら、大丈夫ですから気にせずゆっくり見られて下さい」
「ありがとう。でも大丈夫だ。サイズは、持っている靴と同じだからよっぽど変わったデザインじゃない限り、変わらないから」
「そ、そうなんですね。すみません。余計なことでしたね」
「フッ……そんなことはない」
高橋さん……。
私を見ながら微笑んでくれた高橋さんの笑顔に、何だかホッとしていた。
店員さんから買った商品を受け取ると、高橋さんと一緒にショップを出た。
「さて、もう1軒行きたいんだが、いいか?」
「はい」
外は、だいぶ陽が西に傾いてきていたが、陽射しが暖かく感じられる。
ううん、それだけじゃない。
高橋さんと、こうやって休日に一緒に居られることが嬉しくて、それが自然と体温を上昇させているのかもしれない。異国の地で、しかもアウトレットで一緒にショッピングを楽しんでいるなんて、まるで夢のよう。夢なら、覚めないで欲しい。というより、今は今日がずっと終わって欲しくない。
それにしても、高橋さんが次に行くショップって何処なんだろう? さっきはシューズショップだったけれど、今度はどんなショップなのかな?
「着いた」
エッ……。
思わず、高橋さんの顔を見た。