新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

それ以上、言い返すことは出来なかった。
緊張して、全神経がつないでいる手に集中してしまい、それどころではなかった。
高橋さんと今、手を繋いでいるんだ私。
先ほどまでは、手をつないで仲睦ましく歩いているカップルと擦れ違うたびに羨ましく思っていたのに。いざ、自分がそうなってみると、とてもじゃないけど緊張して息が詰まりそうだ。
「手袋しないのか?」
エッ……。
舞い上がっていると、高橋さんに問い掛けられた。
「あの、は、はい。今は……今は、いいんです」
ハッ!
何を言っているんだろう。自分でも、何だかよく分からない。
本当は、手袋はバッグの中に入っていた。でも、今はたとえ寒くても手袋をしたい気分にはなれない。だって、高橋さんの温もりを肌で直接感じたいから。滅多に、こんなことないし。手袋をするなんて、もったいない。
「そう。でも、お前の手。冷たいな」
ひぇっ。
高橋さんがギュッと手を握ったので、思わず高橋さんの顔を見上げた。
「ん? 何だ?」
うわっ。
ち、近いです。近すぎですって、高橋さん。
ああ。もう、クラクラしそう。
誤魔化すように、左手で額に手を当てるふりをしながら目を隠したが、きっと顔は真っ赤な気がする。外は寒いはずなのに、何故か暑いもの。
額に当てていた手で顔を仰ぐ仕草を見せると、高橋さんに笑われた。
「ハハッ……。忙しいな」
「す、すみません」
「すみません? 何がだ?」
「あっ。い、いえ、その……」
だって、高橋さんと手を繋いでいるから緊張しているなんて絶対言えないもの。
「着いた」
そう言って、高橋さんが立ち止まったショップはシューズショップだった。
此処って……。
「最近、雑誌とかによく載ってるあのショップですか?」
「ああ。最近は、日本でも取り上げられるようになったみたいだな」
高橋さんは、手をつないだままショップの中に入っていった。
ALDEって、確か……シューズのブランドだったはず。
「高橋さん。ALDEの靴をお持ちなんですか?」
「ああ。前から好きで、割とよく履いてるかな」
そうだったんだ。
高橋さんの履いているビジネスシューズは、どこのブランドなんだろう? と、前から気になっていた。いつもピッカピカに磨いてあって、それでいてあまり見掛けないデザインだったり。男の人のお洒落は、スーツは勿論だけれど靴もかなり重要だと思っている。父親が、私の就職が決まった時に言っていた。いくら着飾ったところで、靴が汚れていては全てが台無しになる。何故なら、見る人によっては身だしなみが行き届いていないと思われ、社会人として仕事にも行き届いていない部分があるのではないかと見なされてしまうことがあると。どんなに急いでいても、靴が汚いまま出掛けてはいけないと言われたので、社会人になった時からそれだけは守っている。それだからかどうかは分からないが、高橋さんのピッカピカに磨かれている靴に、気づくといつも視線が行ってしまう。でも、そのピッカピカに磨かれている靴を見て、意味もなくホッとするような。ある意味、チェックすることを日課にしている自分も居る。勿論、そんなことは高橋さんに話せるわけもない。当然、高橋さんにしたら、とんだ迷惑なチェックかもしれないし。
「ちょっと、いいか」
エッ……。