新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

「お前には、その這い上がる力がある。だから落ち込むことも、後悔することもある。だが、それは決して悪いことではない。誰だって、自分の知らないところで多かれ少なかれ、何かしら人に迷惑は掛けている。俺だって、そうだ。右も左も分からないままこっちに来て、周りの人に迷惑も掛けたし、助けてももらった。だが、何から何まで教わって迷惑を掛けたことを詫びたら、こう言われたんだ。何の問題もない。でも、もし貴方がまた誰かの役に立てる時があれば、それに役立ててくれればそれでいい。そう言われたんだ。」
高橋さんも、そうだったの? とても、そうは見えない。きっと、私に合わせてくれているんじゃ……。
「何度も言っているが、最初から何でも出来る人間なんて居ない。もし居たら、お目に掛かってみたいもんだ」
「高橋さん。私……」
「何度でも、這い上がって来い。但し、勝手に居なくなるのだけは、勘弁してくれ」
ああ。もう、私は何も学習出来てない。
「分かったら、返事」
「はい……」
下を向こうとした私の頭を、手の長い高橋さんは左手で掴んで上を向かせた。
「行こう」
エッ……。
「あ、あの……」
「コーヒーも飲み終わったし、混んできたから出よう」
「えっ? あっ、はい」
見ると、座れずに立って居る人があちらこちらに居た。
お店の中が暖かかったせいか、外に出た途端、体温を奪われるような寒さを感じた。
「さて、行きたいところがあるから付き合ってくれるか?」
「は、はい。あ、あの、高橋さん。何処に行かれるのですか?」
アウトレットは、もう出るの? それとも……。
「フッ……もう帰りたいか?」
「えっ? あの、それは……」
「行こう。いいショップがある」
「はい」
あっ……。
優しく背中を押してくれた高橋さんが、お店を出るとそのまま私の手を握ったので、驚いてその手を見つめていると、高橋さんが人差し指で頭のてっぺんをツンツンと叩いた。
「そんなに凝視して、俺の手に何か美味しいものでも付いているのか?」
うっ。
見つかってしまった。
あまりに突然のことだったので、フリーズしたまま高橋さんとつないだ手をジッと見ていたから、とても不自然に感じたのだと思う。
「い、いえ、その……」
「フッ……。また、いきなり何処かに鉄砲玉のように飛んでいって見失ってからじゃ、捜すのも大変だからな」
高橋さん……。
「ハハッ!牛は、今回は言い返さないのか?」
「牛じゃ、ありません」