新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

コーヒーのいい香りと、カップを持った手がほんのり暖かくなって心地いい。
コーヒーを一口飲むと、高橋さんがトレーの上にのっている茶色い紙袋をビリビリと破いた。
「これ、美味しいから食べてごらん」
見ると、破いた紙袋の中からパウンドケーキが出て来た。
「これは?」
「Iced Lemon Pound Cake」
「レモンのパウンドケーキ」
そう言えば、さっき店員さんとの会話の中でそんなような単語が出ていた。
「そうだ。日本のお店には、多分ない。これか、Very Berry Coffee Cakeが俺は好きなんだが、レモンは苦手か?」
「いえ、そんなことないです。でも、高橋さんの分は?」
「俺は、いつも食べてたからいい」
「でも、お好きなんじゃ……」
「ある時とない時があって、ないことが多いから。ある時に、お前も1度味わった方がいい」
高橋さん……。
「じゃ、じゃあ、半分ずつにしませんか? それならいいですよね? あの、私ウェットティッシュ持ってますから」
バッグの中から、急いでウェットティッシュを出した。
「どうぞ」
「フッ……ありがとう」
慎重に、均等になるようにパウンドケーキを半分に割る。
「出来た!」
なかなか、我ながら上手く割れたと思う。
「高橋さん。どうぞ」
「ああ」
パウンドケーキを受け取った高橋さんは、肘を突いて顎を親指と人差し指で挟むように持ってその一部始終を見ながら、さっきから微笑んでいた。
「な、何か、可笑しかったですか?」
「いや……」
それしか言ってくれなかった高橋さんは、まだこちらを見ている。
「あ、あの、何か変ですか?」
「……」
何か、変なこと言ったんだろうか?
それとも、素直にパウンドケーキを1人で食べなかったから?
言われたとおり、素直に1人で食べれば良かったのかな。
それならば……やっぱり……。