新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

店員さんが高橋さんに名前を聞いてカップに書いていたので、そこの部分の会話は分かったけれど、高橋さんと店員さんとのやりとりを聞いていて、やはり速い会話にところどころ分からなくてついていかれない。
「喉が渇いたから、帰るのはコーヒーを飲んでからでもいいだろう?」
「えっ? あっ、はい。あの、私が……」
「大丈夫だ。もう払ったから」
「でも、さっきのお金が」
「此処のカードを持ってるから、それで」
「でも、それは高橋さんのカードですから困ります」
「いいんだ。貰ったカードだから、こういう時に使わないとな。だから、気にするな」
「でも……」
話しているうちに、コーヒーが出来て高橋さんの名前が呼ばれたので、高橋さんはコーヒーを取りに行ってしまい、話は途中で終わってしまった。
「座ろう」
「はい」
空いている席に座ると、テーブルの上に置かれたトレーにコーヒーと茶色い小さな紙袋がのっていた。
「やっと座れたな。ずっと立ちっぱなしだったから、疲れただろう」
「はい。えっ? あっ、いえ、私は大丈夫です。高橋さんこそ、私のせいで歩き回って疲れましたよね。本当に、すみませんでした」
「ニューヨークの寒い冬には本当はホットチョコレートなんだが、日本人にはちょっと甘すぎる。コーヒーの方が飲んだ後、後味も良いからな。さあ、飲んで温まろう」
高橋さん。
高橋さんは、コーヒーのリッドを外して私に差し出してくれた。
「はい。ありがとうございます」