新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

何だか、見るもの全てにカルチャーショックを受けている。まるで夢の世界に来てしまったみたいで、楽しくて仕方ない。
その後、まゆみや家族のお土産をCOACHで買い、一旦、駐車場に戻ってランチを食べることにした。
「その前に、さっきのブーツをPick upしてから戻ろう」
「あっ・・・・・・そうですよね」
もう、すっかりブーツのことなど忘れてしまっていた。
カウンターに行って高橋さんは店員さんと会話をしていたので、またチラチラ周りの商品を見ていると、程なく先ほど取り置いてもらっていたブーツをショッピングバッグに入れて持って来てくれた。
「あの、高橋さん。その2足のお会計をしたいのですが」
「Thank you!」
あれ?
店員さんに手を振られてしまったので、つい合わせて手を振ったが・・・・・・。
何で? 
お会計は?
「高橋さん。まだお会計していないので、そのまま出たらアラームが鳴っちゃいますよ」
「大丈夫だ」
はい?
「だ、大丈夫じゃないですよ。待って下さい」
このままショップを出てしまったら、絶対アラームが鳴っちゃうって。
「高橋さん!」
そんなことはお構いなしに、高橋さんはショップを出てしまった。
アラーム、鳴っちゃう!
思わず、目を瞑って両手で耳を塞いだ。
あれ?
恐る恐る目を開くと、高橋さんはショップを出てもう5メートルぐらい先を歩いて行ってしまっている。
「あ、あの、高橋さん。待って下さい」
すると、その声に高橋さんが立ち止まって振り返ってくれた。
「あの、ブーツの代金は・・・・・・」
「ああ。払った」
はい?
「は、払ったって、高橋さん。あの、幾らでしたか? 今、お支払いしま・・・・・・」
「ちょっと、待て」
エッ・・・・・・。
バッグから、お財布を出そうとしてファスナーを開こうとしたところで、その手を高橋さんに止められた。
「お前。さっきも言ったよな。今、お前は何処に居る?」
「えっ? 今、何処に・・・・・・って、アウトレットです」
すると、高橋さんがガックリ項垂れた。
ハッ!
「あ、あの・・・・・・私、何か変なこと言いました?」
「そうじゃない。此処は、アメリカだ。日本じゃない。こんな人通りが激しいところで、バッグを開けて財布なんか出すものじゃない」