新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

このブーツ・・・・・・そう言えば、先ほどの2人の女性の姿が見えない。さっきまで、此処に居たのに。最初にキープしていたブーツと、その色違いのブーツの右足だけが床に置かれているが、2人の女性の姿はもう見当たらなかった。
ハッ!
そんなことよりも、早く行かなきゃ。
「It comes by it later」
「OK! Bye bye」
あっ、高橋さん。居た、居た。
「行くぞ」
えっ? 
どういうこと?
な、何で? 
ブーツは?
「高橋さん。あの・・・・・・」
「ちょっと、いいか」
高橋さんは私の腕を掴むと、先ほど座ってブーツを履いてみていた場所に戻り、同じ場所に一緒に座った。
「さっき、危なかったのが分かるか?」
はい?
危なかったって?
「あの、何が・・・・・・ですか?」
危なかったって、何のこと?
「お前。さっきの2人連れの女性に、キープしていたブーツを取られたと言っていたよな?」
「はい。それが・・・・・・何か?」
「それで、その後も同じように見ていたブーツを横から手を出された」
「はい・・・・・・そうなんです。見ていたのに、突然現れて早口で捲し立てられてしまって。大きな声で会話をしながらブーツを手に持って行かれてしまったんですが、さっきも高橋さんが来て下さってからも同じような感じで・・・・・・」
「その時、お前は何も言い返さなかっただろう?」
「はい。何を言われているのか分からなくて・・・・・・すみません」
何を言っているのか分からなくて、とても言い返せる感じじゃなかった。
「怒っているわけじゃない。決して、お前を責めているわけでもないからな」
高橋さん・・・・・・。
「お前が言い返さなかったのが、かえって良かったんだ」
「えっ?」
言い返さなかったのが、良かった?
「ああ。下手に言い返して会話に加わってしまっていたら、周りにも目を配れなくなっていたと思う。会話に必死になってしまって、一瞬の隙を作る。そこが奴らの狙いだから」
はい?
高橋さんが、何を言っているのか良く分からない。
「見てみろ」
「あの2人。お前から2足のブーツを取り上げたはずなのに、今は何も持っていない」
あっ・・・・・・。
見ると、先ほどの2人の女性は手には箱もブーツも何も持っていなかった。
「変だと思わないか? ブーツは見ずに、辺りを見てばかりいる」
確かに、変だ。ブーツを見ないで、周りをキョロキョロしている。