新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

「ああ。ちょうどいいのがあったから、これにする」
そう言って、高橋さんは箱の蓋を開けて見せてくれた。
「うわぁ。素敵ですね。えっ? これ、新しいデザインなのに50%OFFなんですか?」
見ると、STOUTカラーのレザータイプのLYLEだった。
「ソールの部分に、僅かだがキズがあるらしい。俺は、気にならないが」
「そうですよね。履いているうちに、分からなくなっちゃいますもん」
「そうだな」
「はい」
「OH!」
エッ・・・・・・。
高橋さんとそんな会話をしていたら、いきなり後ろから先ほどのキープしていたブーツを持っていってしまった2人組の女性がまた現れて、私が買おうとしていた床に置いてあるブーツを手に取ってしまった。
嘘でしょう?
また、先ほどの2人の女性が現れるなんて。それも、買おうと思って左足の方も持って来て貰ったというのに・・・・・・。
不安な思いでいると、2人の女性はまた大きな声で会話をしながら、さっき最初にキープしていたブーツと並べて比べ始めた。
何か、嫌だな。
思わず高橋さんの顔を見ると、高橋さんは目を丸くして2人の女性を見ている。
「また、取られちゃう」
「ん? 何?」
思わず小さな声で呟いてしまったため、高橋さんに聞き返された。
「あ、あの、実はさっきも同じようなことがあって・・・・・・」
「同じようなこと?」
「はい。あの女性が手に持っているブーツ、最初は私がキープしていたのですが、ちょっと床に置いて他のブーツを履いていたら持って行かれてしまって・・・・・・でも、私が手から離してしまったのがいけないのですが」
「そう・・・・・・」
高橋さんは、あまりその話には興味がなかったのか、ひと言そう言っただけで2人の女性の方を見たままだった。
「お前、ちょっと此処に座ってジッとしていろ」
エッ・・・・・・。
いきなり高橋さんは、腰の後ろに回ってしまっていた私が斜めがけしていたバッグを半ば強引に座らされた私の膝の上に置いた。
「ちょっと、待ってて」
「は、はい」
そう言うと、高橋さんは店員さんと何かを話し始め、店員さんは高橋さんに何かを頼まれたのか、ストックの方へと向かって行ってしまった。
な、何?