新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

「出来上がり」
エッ・・・・・・。
「も、もう出来ちゃったんですか?」
「ああ。もう1枚焼くが、直ぐ出来る」
そう言うと、高橋さんはフライパンに先程と同じようにオリーブオイルを入れて、ボールに残っていた半分の材料を入れて焼き、卵を割って入れると火を止めた。
「テーブルに運んで」
「はい」
お皿に盛りつけられたガレットをテーブルに運ぶと、程なく高橋さんがコーヒーカップを2つ持ってきてテーブルの上に置いて、またキッチンに行ってしまったので慌てて後を追い掛けると、冷蔵庫からサラダの入った小さめのサラダボールを2つ取り出した。
「さあ、席に着いて」
「は、はい」
言われた通りに席に着くと、目の前にサラダボールを置かれた。
いったい、いつ作ったんだろう?
「あ、あの、高橋さん。これ、いつ作ったんですか?」
「お前が、二日酔いで寝てる間」
うっ。
ま、また痛いところを・・・・・・。
「食べたくないかもしれないが、食べた方が二日酔いの治りも早い」
「そうですね・・・・・・」
もう、完全にバレている。でも、あまり食べたくないな。
「二日酔いのままじゃ、アウトレットにも行かれないぞ?」
「は、はい!」
それは困る。
せっかく楽しみにしてたんだもの。
「フッ・・・・・・現金な奴だな。さあ、冷めないうちに食べよう」
「はい。頂きます」
あまり食べたくなかったが、アウトレットに行きたい一心で気合いを入れ、まずはコーヒーを一口飲んで気分を落ち着けてから、高橋さんが作ってくれたガレットを口に運んだ。
何、これ。
「美味しい!」
「それなら良かった」
「凄いです。高橋さん。これ、お店で出されたガレットみたいです」
細かく刻んだポテトのシャキシャキとした食感に、生地の風味が香ばしさと共に本当によく合う。
「ジャガイモは、二日酔いに効くビタミンやカリウム、食物繊維を含んでいるから食べられて良かった」
ハッ!
「そ、そうですね。よ、良かったです」
「フッ・・・・・・」
ああ。もう、情けないな。二日酔いなんて醜態を、高橋さんに晒してしまって。全部お見通しだし。
そうだ。
そう言えば、さっき高橋さんが言ってた 『聞かない方が、お前のため』 って、何なんだろう? やっぱり気になる。
朝ご飯を食べ終わって、コーヒーをお代わりして飲んでいる時に、何気なく高橋さんにもう1度聞いてみた。
「あの、高橋さん。さっき仰っていた、聞かない方が私のためっていうのは、いったい・・・・・・その・・・・・・」
「ああ。忘れた」