新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

「あの、決まりって。高橋さん･･････」
「今朝は、貴ちゃん特製ガレットに決まり」
貴ちゃん特製？
「あ、あの、高橋さん。ガレット作れるんですか？」
「ああ。簡単だしな」
「凄い！　ガレット作れるなんて、凄いです」
「二日酔いにも、いいしな」
うっ。
そ、そこを突かれると･･････。
「フッ･･････。やっぱり図星だな」
「ち、違いま･･････ｲﾀﾀ･･････」
高橋さんは、笑いながら冷蔵庫を開けると、卵とジャガイモを取り出した。
でも、ガレットって簡単に作れるものなの？
半信半疑で見ていると、高橋さんはジャガイモを千切りにした。
は、速い。私が切るより、ずっと速いし上手い。
「フッ･･････。あまりジッと見るな。緊張するだろう？」
「えっ？　あ、あっ。すみません。凄く上手なので、つい見入ってしまって･･････」
気づくと、かなり近づいて高橋さんの切る速さに見入ってしまっていた。
「別に、普通じゃないか？　明良なんて、マッハで切ってる感じがするけど」
確かに。
明良さんも、包丁さばきが凄く上手かったのを思い出した。
「そうですよね。明良さんも、お上手ですよね」
「上手というか、明良の場合、商売道具の延長線上って感じだが」
商売道具の延長線上？
ハッ！
「そ、そんな･･････」
「ハハッ･･････。だって、自分でも言ってるから。切るのは、俺に任せろって」
明良さんが、そんなことを。
「そ、そうなんですか。勿論、冗談ですよね？」
「いや。本気で言ってると思う」
エッ･･････。
「勘違いするな。それだけ、自分の仕事に自信を持ってるってことだ。彼奴の手先の器用さは、秀逸を極めている。俺も、明良は今の仕事が天職だと思ってる。悪いが、セットしてあるからコーヒーメーカーの電源スイッチをONに入れてくれるか？」
「は、はい」
言われたとおり、急いでコーヒーメーカーのスイッチをONにした。
そういうことだったんだ。
明良さんの専門は外科だけれど、内科を専門とする外科医だと聞いたことがあった。でも、内科といっても消化器もあれば、呼吸器もある。その範囲は広いから大変だと思う。
「明良さん。本当に凄いですね」
「でも、煩い」
プッ！
「今頃、くしゃみしてるぞ」
高橋さんは、笑いながら刻んだジャガイモをボールに移し、そこにコーンスターチと塩コショウを入れて混ぜると、オリーブオイルを入れたフライパンにボールの中身の半分を入れて焼き、こんがりしてきたところに卵を割って入れると火を止めた。
いい匂い。でも･･････。