新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

まずい。頭が痛いのが、バレちゃう。
「そ、そうじゃないです」
「ほう?」
「い、い・・・・・・いったい私は、何をしちゃったんですか? って、聞きたかっただけです」
「教えない」
はい?
「お、教えないって」
「ヒ・ミ・ツ」
高橋さんは、左手の人差し指をリズムの速いメトロノームのように左右に振ると、ほんの少しだけ舌を出して見せた。
「もう! 高橋さん。焦らさないで、教えて下さ・・・・・・イタタ・・・・・・」
「どうも、お前の牛は神出鬼没のようだな。何処にでも現れる。しかも、今朝は頭の痛い牛のようだな」
「高橋さん!」
「はい」
うわっ。
痛みを堪えて先に回り込んで目の前に立って問い質そうとしたのに、その前に高橋さんに顔を覗き込まれてしまった。
ち、近い。近過ぎですって、高橋さん。
「まあ・・・・・・聞かない方が、お前のためだと思うけど?」
「えぇっ?」
何?
聞かない方が、お前のためって・・・・・・。
でも、さっき起きた時、別に変わった感じはしなかったし、着衣の乱れもなかったし・・・・・・って、私ったら何考えているんだろう。
ヒャーッ。
あれこれ想像してしまっている自分が恥ずかしくなって、思わず両手で顔を覆った。
「朝から、忙しい奴だな」
うっ。
「た、高橋さんが、教えてくれないからですよ」
「そうなんだ」
「そうですよ」
あっ。ペースに巻き込まれて、納得してる場合じゃない。
「いい加減、教えて下さい。お願いします」
高橋さんの前で手を合わせてみたが、そんな私を見て楽しんでいるように、高橋さんは両掌を上に向けて肩を窄めて見せた。
「そんなことより、お前。ガレット好きか?」
「ガレット・・・・・・ですか?」
いきなり聞かれて、頭がまだ半分寝ているような感覚だったので、ガレットが何だったかピン! と来なくて少し返答が遅れた。
「あっ。ガレット。ガレットですね。好きです」
「そうか。それなら、決まりだ」
エッ・・・・・・?