新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

目の前に居る高橋さんを好きになって、それが恋心だと気づいた。あの時のドキドキする感情は今も変わらないけれど、その時はまだ気づかなかった。不安になる気持ちを、どう対処していいのかを・・・・・・。
「気持ちを紛らわすことに、アルコールの力を借りるのはあまり勧められない。何かの力を借りて現実を紛らわそうとしても、結局何時かは対峙しなければならないはず。それなら、一時の現実逃避よりも現実を直視した方が得策だ」
現実逃避。
「高橋さんは、頭がいいからそんな風に冷静に物事を見られるし、考えられるんですよ」
「・・・・・・」
「でも、私には冷静に物事を捉えられないことだってあるんです。だから、それが嫌だから現実を直視出来ない時だってあるんですよ。それが自分でも分かっているから、悔しくて。はぁ・・・・・・」
座っているのに、周りの景色がグルグル回って見える。
「お前、もう寝た方がいい」
「大丈夫です! そうやって、いつも高橋さんは私を子供扱いするし」
「そんなことはない」
「そんなことはない」
高橋さんの口調を真似して言ってみた。
「お前、飲み過ぎ」
「もう! ちっとも分かってないんだから、高橋さんは」
「分かった。この話の続きは明日聞くから、今日はもう寝よう」
「嫌。寝たくないです」
立ち上がった高橋さんに反抗するように、椅子に深く座り直した。
「ほら、立って」
高橋さんが、私の右腕を掴んで無理矢理立たせた。
「ちょ、ちょっと高橋さん。まだ、話は終わってな・・・・・・ヒャッ・・・・・・」
もう1度座り直そうとしたのに体が宙に浮いて、高橋さんに抱っこされてしまった。
「おろして下さい! 高橋さん」
「嫌だね」
「高橋さん!」
何とか下ろしてもらおうと暴れてみたが、無駄な抵抗らしく歯が立たない。
「お前の部屋、入るぞ」
そう言って、高橋さんは私の部屋のドアを片手で開けて中に入り、ベッドカバーを外して毛布を捲ると私をベッドに寝かせた。
「まだ、寝たくないですから」
起き上がろうとしたが、高橋さんに抱っこされた時に暴れたせいか酔いが益々廻って上手く起き上がれない。