新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

結婚生活って、こんな感じなの? 
考えているだけで、ドキドキする。
どうしよう・・・・・・またとないチャンス。リアルに体験出来て、嬉しすぎる。
「何だ?」
エッ・・・・・・・。
「さっきから、何ニヤニヤしているんだ? 何か、嬉しいことでもあったのか?」
うわっ。
大変。見られてたなんて、恥ずかしい。
「な、何でもありません。何でもありませんから。あっ・・・・・・」
慌てて興奮して否定したので、持っていたスポンジの泡がせっかく洗ったばかりの高橋さんが持っていたお皿に撥ねてしまった。
「すみません。もう1度、すすぎますね」
高橋さんからお皿を受け取ってすすいでいる時に、ふと気になった。
そう言えば・・・・・・山本さんは、何でかおりさんと呼ばれているんだろう? もしかして、戸籍上の名前も変えてしまったの?
「あの、高橋さん」
「ん?」
「どうして山本さんは男性なのに、かおりさんと呼ばれているんですか?」
「ああ。それは・・・・・・」
高橋さんは、拭き終わった食器を棚に戻しながら応えてくれた。
「かおりの本名は、山本香一。香る数字の一と書いて香一。こっちに来てから、自分でかおりと名乗り始めてね。山本と呼んでも、返事をしないんだ」
「えっ?」
「それで、自然とみんなも山本ではなく、かおりと呼ぶようになったんだ」
「そうだったんですか」
返事をしないなんて。でも、あの山本さんなら想像出来るような気がする。
「で? 陽子ちゃんは、そんなかおりが俺の彼女だと勘違いしちゃったわけだ」
ハッ!
やっぱり、ばれてた。
「そ、そんなんじゃないです。そんなこと、ち、違いますから」
「その様子じゃ、相当焦ってるな。益々、怪しい」
「違います! そんなんじゃないですから」
「フッ・・・・・・」
「もう、高橋さんの意地悪。大嫌い」