新そよ風に乗って ⑤ 〜慈愛〜

説得力のある言葉だな。
「何か、世界を知ることって大事なことなんですね。自分の国を知ることにも繋がるなんて、考えてもみなかったです」
「そうだな」
「話して下さって、ありがとうございます」
何だか、話を聞いているだけで自分がグローバルな人間になれるような錯覚をしてしまいそう。
「で・・・・・・お前を知ることは、俺はもっと俺自身を知ることにもなるわけだからな」
はい?
「陽子ちゃーん。かおりとランチをした時に、用事を思い出したから支社に戻ると言ってたが、あの用事とは何だったのかなー?」
うっ。
「た、高橋さん。そ、そんなこと、まだ覚えていたんですか?」
もう、忘れていると思ったのに・・・・・・。
「of course! そんなことって、陽子ちゃーん。どんなこと?」
この高橋さんから悪戯っぽく笑いながら送られてくる視線をヒシヒシと感じて、焦るばかり。
ど、どうしよう。
まさか、男に嫉妬してました。なんて言えないし・・・・・・。
「な、何の事ですか?」
駄目もとで惚けてみたが、きっとこんなの高橋さんには通じないはず。
「ふーん・・・・・・忘れちゃうぐらい、大したことじゃなかったってことか」
「えっ? あっ。そ、そうです。そうなんです。大したことじゃないですから、気にしないで下さい」
「そうか」
はぁ・・・・・・良かった。これ以上、突っ込まれなくて。
「でも、おかしいよな。ランチをキャンセルしてまで、戻りたかった用事を忘れるなんてことあるのか?」
うっ。
やっぱり、突っ込まれた。
「そ、それは、その・・・・・・」
「フッ・・・・・・」
高橋さんは微笑むと、私の食べ終わっていたサラダボールを黙って自分の食器に重ねると席を立ってキッチンに向かった。
「あっ、すみません。今、片付けます」
急いで食器とグラスを持って追い掛けてキッチンに向かうと、高橋さんがシンクに食器を置いてスポンジを持とうとしていたので、慌ててそれを奪い取った。
「此処は、私が」
「じゃあ、食器を拭こうか」
「ありがとうございます」
食器を洗いながら、直ぐ傍に立っている高橋さんの存在に安堵する。
こういうシーンをよくテレビで見たりしていたけれど、実際に遭遇すると不思議な感覚に囚われる。まるで、前から一緒に居るような感じがしてならない。もしかして、結婚するとこんなシーンが沢山あるのかな? 
フフッ・・・・・・。
予行演習のような、疑似体験をしているみたい。高橋さんと一緒にキッチンに立って、お料理したり片付けたり出来たらいいな。
あれ?
でも、既にそんなようなことを昨日からしている気がする。ということは・・・・・・。
キャーッ。