いつもより早めに玄関を出た日奈子を待っていたのは、隣の家に住む幼馴染であり親友だった。
 明るい色のショートヘアが春の朝日にキラキラと照らされ、真新しい制服とともに清々しく見える。だけど、表情はあまりパッとしない。

「よっ」
「琥珀、おはよう。どうしたのこんなはやく……」
「昨日、遊馬に詰められた」
「え、」

 声を上げると琥珀は学校への道を歩き出した。日奈子もその隣に並ぶと、琥珀は「はぁぁ」と大きなため息をつく。

「おかげで寝不足だわ……」

 言い終わらない前に大きなあくびをした琥珀はさらに続ける。

「宿題出てんのわかってるくせにオロオロと人の部屋に飛び込んで、あいつ本当に……」

 呆れながら呟いた続きの言葉を、琥珀は飲み込んだ。

 遊馬くんと琥珀の兄妹仲は、悪くない。遊馬くんは八歳下の妹を可愛がったし、琥珀もなんだかんだ言いながら遊馬くんを頼りにしているし慕っている。
 そんな頼れる兄が、帰宅後すぐに狼狽えながら妹の部屋に飛び込んだと言うのだ。

「……遊馬、日奈子のこと心配してたよ。何であんなに怯えてたんだって」

 その言葉にごめんねと日奈子が口を開く前に、琥珀は続ける。
 
「とりあえず、学校に遊馬がいてびっくりしたんじゃないかとは言ってある。でも、日奈子が自分の口で言わなきゃって決めてることは、言ってないから」

 それは、日奈子の気持ちを汲んでくれてのこと。
 
「うん、ありがと……」

 わたしも恐怖症を克服しなきゃ。

 そう言葉を続けたかったけど、口に出したら実行できない約束をするようで、日奈子はぎゅっと口をつぐんだ。