「敬介よ……」

ふと顔を上げると呆れた目。

「……なんすか?」

「お前、夏休み入ったってのになんでこんなとこにいるわけ?しかも一人で」

「うるさいよ」


酒が入ったグラスを傾ける。

間接照明で照らされた店内は適度に薄暗く保たれていて、居心地のいい空間を作り上げている。

薄くかけられている音楽、時折響くシェイカーの音。
選ぶ人が選ぶ人なだけあって、中々のセンスだと思う。


奥には少しだけスペースがあって、そこにはピアノが置かれている。

基本的に弾くのは俺だったり。

本気で上を目指すほど上手いわけじゃないけど、
そこそこ聴かせられるくらいの腕はある……と思う。


ま、別にプロ相手に弾くわけでもないし。


ちなみにここが俺のバイト先。
だからこそ、ここのピアノを弾かせられてるんだけど……。


「奏ちゃんは?」

「どっか飛んでったよ。まぁいつものことだけどね」


すると悠飛さんはニヤリと笑って、

「それで寂しく酒飲んでるわけね。しかも一人で」


人の不幸は蜜の味……ってか。


「ほっといて。泣けてくるから……」